港町の妹騒動
港町の埠頭。エルフィナ、ティナ=カク、メイ=スケの三人は船を見に来ていた。
エルフィナ(目を丸くして)
「うわ〜……ところどころ、破壊されてますわね〜」
(肩を落としながら)船団長
「そうですねぇ……あの悪魔襲来で、どの船も被害を受けました。修理にはだいぶかかりそうで、すぐに出港はできそうにありません」
エルフィナ(しゅんとして)
「そうですかぁ〜……」
メイ=スケ(のんびり指をさして)
「ん? あの船は? 潰れてませんよ〜?」
船団長(あわてて手を振る)
「あ、あれは……ダメです!」
――その時。
低い声が背後から響いた。
女船長
「私の船に乗りたいのかい?」
振り向くと、ずいぶん大柄で筋肉質な女性が現れた。黒い帽子をかぶり、コルセットにロータスリーフのロングスカート。腰には太いベルトと剣。ブロンドの髪が風に靡き、透き通るブルーの瞳がきらめいている。
エルフィナ(少し驚きながら)
「は、はい……できれば……」
女船長(にやりと笑って)
「それじゃ〜交渉しようじゃないかぁ? こっちに来な! 耳貸せ」
エルフィナ(青ざめて後ずさり)
「な、なぁ! その額じゃ無理です……」
メイ=スケ(首をかしげて)
「エルフィナ様、いったいどんな交渉を……?」
女船長(メイ=スケを指さして)
「お! あの子、可愛いじゃないか。あんたの護衛かい?」
エルフィナ
「は、はい……」
メイ=スケ(にやにや笑って)
「はは〜ん、ご指名だよカクぅ〜。上手く断らないとね〜?」
ティナ=カク(びっくりして)
「え!? 私か……?」
女船長(豪快に笑って)
「違うさぁ! あんただよ〜、そこのポニテぽっちゃりさん!」
メイ=スケ(目を丸くして後ずさり)
「えー!? うそ? 怖いんですけどぉ〜!」
女船長(豪快に手を広げて)
「あのポニテのぽっちゃり嬢ちゃん、私の好みだ! くれよ〜♡ そしたらお金はいらないよ!」
エルフィナ(烈火のごとく前に出て)
「な、なにを言ってますの!? 人を……いえ! わたくしの大事な護衛を物みたいに扱わないでくださいまし!!」
メイ=スケ(涙目で胸がじんとしながら)
「ひ、姫様……ありがとうございますぅ」
女船長(ケラケラ笑って)
「ははっ! お姫様、怒る顔もまたいいねぇ!」
(女性船員たちがヒューヒュー冷やかす。場が騒がしくなるが、女船長は手を上げて静止する)
女船長(真顔で)
「エルフィナ姫かぁ……。なかなかいいね。部下思いで、気に入ったよ」
――すると、女船長がふっと笑いをやめ、少し伏し目がちになる。
女船長(低く)
「……さっきは冗談半分さ。けどな……あの子、妹に似てるんだ。昔、海にさらわれちまった。もう二度と会えねぇ……」
(空気が一気に静まり返る。エルフィナも言葉を失う)
女船長(明るく笑い直して)
「さっきはすまない! からかいすぎたね〜。お詫びといっちゃなんだが!! 船に乗せてやんよ!!!」
メイ=スケ(頬を少し赤くして)
「……私なんかでよければ、航海の間だけでも……妹さんの代わり、するね。私じゃ役不足かもだけど……少しでも船長さんが寂しくないなら……」
女船長(ぐっと涙をこらえて、豪快に笑う)
「……ははっ! なんだい、可愛いこと言いやがって……ありがとよ、嬢ちゃん!」
(空気が和み、船員たちが「船長が泣いた!」と冷やかす)
女船長(真顔で)
「うるさいお前たち!」
エルフィナ(胸を撫でおろしながら)
「ありがとうございますわ。船長、わたくし達をお願いします。妹様のぶんまで……安全に」
女船長(目を細め、真剣に)
「ああ、任せな。あんた達の航海、必ず無事に届けてやる。今度こそ、守り抜くさ」
――だが次の瞬間。
(女船長は涙を拭ったかと思えば、そのままメイ=スケにがばっと抱きつく)
女船長(ぎゅうっと抱きしめて)
「もう離さないよ〜♡ 可愛いんだからぁ〜!」
メイ=スケ(目を白黒させてじたばた)
「え、えー!? こ、こんなに妹って……くっつくものですかぁ!? 動けませんよぉ〜!」
エルフィナ(真顔で胸を張って)
「妹とは! 姉とのスキンシップを断ってはいけません! それが妹の務めですわ!」
ティナ=カク(冷や汗をかきながら)
「スケ! 習わなかったのか!? エルフィナ様は第一王女から第四王女まで“スキンシップ甘やかし”で育てられたんだ! 常識がちょっと……いや、だいぶズレてる! 頑張れ!」
エルフィナ(ムッとしながら)
「そんなことございません! 妹は常に姉の言うことを聞き、甘えるものです! これこそ常識ですわ!」
メイ=スケ(涙目でじたばた)
「ちょ、ちょっと待ってくださいぃ〜! 動けないんですけどぉ〜!」
女船長(頬ずりしながら)
「はぁ〜〜〜♡ 可愛いなぁ〜おまえは! よ〜しよ〜し♡」
(船員たちは腹を抱えて爆笑。メイ=スケは涙目でじたばた)
――その様子を、遠くから監視魔法で覗いていたルイフェル、ひめな、ノーム、アーシア、ミャーリ。
アーシア(きょとんとしながら)
「……早く行きましょう? ルイフェル様、エルフィナ様たちがお待ちです」
ルイフェル(青ざめて)
「今はやめとけ!!」
アーシア(驚いて)
「え?」
ひめな(真顔で)
「運のないアーシアは……巻き込まれるぞ!」
ノーム(ふわふわ揺れながら)
「そうじゃのぉ……確実に被害を受けるじゃろ」
ミャーリ(耳をぴくぴくさせて)
「そうにゃそうにゃ。アーシア様って、いつもトラブルに巻き込まれるにゃ。ダメにゃよ!」
アーシア(困った顔で)
「えっ? み、みなさん……大丈夫ですよ〜? 行きましょうってば……」
ルイフェル(苦笑いしながらアーシアを押す)
「今日は帰ろう〜、なぁ」
(ひめなとノームも左右からアーシアの背を押す)
アーシア(しぶしぶ歩かされながら)
「えぇぇ……そんなぁ……」
(こうしてアーシアは背中を押され、港を離れていった――)
――つづく
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