お留守番と小さな訪問者
アーシア達の泊まっているトライヤの宿。
夜、留守番組はリビングに集まっていた。
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ひめな「今日はルイフェル達、バード公爵邸に泊まるらしい。念話で知らせが来た」
ミャーリ「え〜!いいなぁ〜! 美味しいご飯食べたかったにゃ〜!」
ノーム『生きた杖、』(ふわふわ浮かびながら)「久しぶりの出番じゃが……今日は活躍なさそうじゃの〜」
(しょんぼり)
ひめな(ノームを見て微笑む)「じーじは歳なんだから、私に任せる!」
ノーム「ほほほ、そうじゃなぁ……ひめな、また将棋でもするか?」
ひめな「じーじ、弱い」
ノーム「……手厳しいのう」
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ガチャリ。宿の扉が開き、天使ちゃんが帰って来た。
天使ちゃん「ただいまですぅ〜! 今日ね、大神官様からお小遣いもらったんだぁ!!」
ノーム「それは良かったのぉ〜」
ひめな(眉をひそめて)「お小遣い? なぜ? アーシアが大神官には注意しろって言ってた。……何かされた?」
天使ちゃん(首をかしげて上を見ながら)「う〜ん……サイン会とか、グッズ出そうって言われたかなぁ? とても良いことだって、大神官様ニコニコして言ってたんです〜」
ノーム「それは……ギャラじゃ! お小遣いじゃなくて“先払いのギャラ”じゃぞ!!」
ミャーリ「わたしも言われたにゃ〜! “サイン会するにゃ”って!」
ノーム(ぷんぷん怒りながら)「こりゃ〜注意しに行かねば!! 悪魔の魔道具の力、見せてやる!!」
天使ちゃん「え〜! だめです〜!そんなことしたら〜」
ひめな(槍に半分変幻して)「純粋むくな乙女に!じーじ!!私が斬り刻む大神官!!」
天使ちゃん(おろおろ)「だめですって〜! それに……」
(指をツンツンして、顔を赤らめる)
「……私も、純粋むくな乙女じゃ…ないです…少しは分かります……」
ミャーリ(にやっと笑う)「その“少し”って、どの辺にゃ〜?」
天使ちゃん(真っ赤になって)「もぉー!! この話は終わりです! お小遣い返して来ま──あっ!」
一同「……あっ?」
天使ちゃん(床にペタ座り)「お金、使っちゃいましたぁー!! シクシク」
ミャーリ「何に使ったにゃ?」
天使ちゃん「露店で売ってた、みんなで遊べるゲームです!」
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ノーム「仕方ないのぉ……へそくりじゃが、これで返して来なさい。明日にでも」
(小銭袋がふわふわ浮かび天使ちゃんの手へ)
天使ちゃん「ありがとうございます! このお金は借りたということで、絶対返します!」
ミャーリ「天使ちゃん、強くなったにゃ〜。前なら泣いてただけにゃ」
(ひめなとノームがうんうん頷く)
天使ちゃん(にこっと笑う)「成長しましたから、私も!」
ミャーリ「で? どんなゲームにゃ〜?」
天使ちゃん「ふふふ、これです! “恐怖地獄めぐりボードゲーム”!!」
ミャーリ(ぶるぶる震える)「違う意味で成長しすぎにゃ! こ、怖いにゃ〜!」
ひめな(鋭い声)「感知! それ! 置け!」
ノーム「やばいぞー! 離すんじゃ、天使ちゃん!」
天使ちゃん「え〜、大丈夫ですよぉ? みんなオーバーだなぁ〜」
(その時――)
天使ちゃんの手にあったボードゲームの箱がガサガサと勝手に動き出す!
天使ちゃん「むぅにやーはぁーあー!!」
(変な悲鳴をあげて手から投げる)
ボンッ!! 箱から煙が噴き出し、宿の部屋中が煙に包まれた。
ノーム「皆こちらに! 結界展開!!」
ひめな「感知……ボードゲームらしいものは、別の何かに?」
天使ちゃん(震えながら)「ご、ごめんなさいですぅ〜!」
ミャーリ「天使ちゃんのせいじゃないにゃ。けど……煙で見えないにゃ〜!」
ひめな「埒があかない……本気で行く!」
(ひめなが魔槍に変幻!)
煙の中から――
「きゃー!こわいこわいですー!やめてくださいー!」
泣きながら現れたのは、小太りのキツネだった。
ミャーリ「……たぬきにゃ?」
コンきち「ち、違います! キツネですコーン! コンきちって言います! 先程はすみませんコン!」
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◆ コンきちの告白
ノーム「まず話を聞こうじゃないか。事情があるじゃろうし」
コンきちは涙目で事情を語り出した。
「じ、実はボク、たぬきち君と“化けっこかくれんぼ”してたんですコン……。
その時、露店の“ボードゲームの箱”に化けて隠れてたんですけど……つい眠っちゃって……」
「気づいたら本物の商品と間違えられて、知らない間に羽のお姉さん(=天使ちゃん)に買われて、宿に運ばれて……。怖くなって動き出したんです! 本当にごめんなさい!」
コンきち「うわーん! 帰りたいコーン!」
天使ちゃん「なんとか帰してあげたいです……!」
ミャーリ「可哀想にゃ〜」
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ノーム「よし、転送して帰してやろう! ひめな!」
ひめな「了解、じーじ!」
ノームが魔法で全周囲をスキャンし、ひめなが感知して目的地を固定する。
ひめな「探した! キツネの夫婦とたぬきが探してる……ここだ!」
ノーム「転送するぞ!」
ひめな「槍に乗れ! 飛んでいく!!」
コンきち(青ざめながら)「えっ……そ、それはちょっと……飛ぶのは…転送でお願いします!」
ひめな(ぷくっと膨れて)「むぅ〜……」
ノーム「まぁまぁ、良いではないか」
コンきち「皆さん、本当にご迷惑おかけしました! ありがとうございます! さよーなら〜!」
魔法陣が光り、コンきちはスーッと消えていった。
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ひめな「じーじはすごい! 遠距離転送上手い。」
ノーム「ほほほ、年の功じゃ。ひめなもすぐできるようになるわい」
ひめな(ギロッと見て)「本当か?」
ノーム(心の声)「……たまに怖いのう、ひめな。ルイフェル姫に似ておるわ」
天使ちゃん「ありがとうございます! お二人のおかげで、コンきちさん無事に帰れました!」
ひめな「感謝……悪い気はしない」
ノーム「ほほほっ」
ミャーリ「そうにゃ! お祝いにご飯にするにゃ!」
天使ちゃん「そういえば、お腹ぺこぺこでしたぁ!」
ひめな「甘いもの出す」
ノーム「わしは皆の笑顔でお腹いっぱいじゃ」
宿の明かりが、夜空に滲む星と溶け合っていた。
――つづく
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