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優しさのかたち

「依頼掲示板……?」


旅の途中で立ち寄った小さな村。ルイフェルたちは村の中央広場で、一枚の紙を見つけた。

魔物の討伐依頼――洞窟に棲みついた魔物を退治してほしいとのこと。


「これ、報酬が出るみたいです!」

アーシアが明るく言うが、その声の裏に不安が隠れていた。


「また戦うのか……」

彼女の手はわずかに震えていた。


「行くぞ」

ルイフェルはもう歩き出していた。ノームがふよふよと浮かびながら、アーシアに目を向ける。


「怖いですかな、アーシア殿?」


「……怖くないって言ったら、嘘になります。でも……わたし、聖女ですから」


ノームは少しだけ微笑んだようだった(杖だけど)。



数時間後。洞窟の中はひんやりとした空気に包まれていた。


「いる。奥の方から魔力反応」

ノームが静かに言う。


「よし、倒す」


ルイフェルが前に出たその時――魔物が現れた。

牙が鋭く、身体は傷だらけ。だが、どこか様子がおかしい。


「クゥン……」

魔物は威嚇もせず、ただ震えていた。


「なにこれ、やる気ないの?」


ルイフェルが左手をかざし、吸収の構えを取る。


「ま、待ってくださいルイフェル様!」


アーシアの声が響く。


「んだよ。こいつ、攻撃してきたら吸収して当然でしょ」


「でも、もう戦う意思がないように見えます。きっと、ただ怯えてるんです」


魔物は小さく鳴いて身を縮めた。


「はあ……甘いな、お前は」

ルイフェルはそう言いつつも、手を下ろした。


ノームがふよふよと浮かびながら近づく。


「姫様。今回は、聖女様に一つ譲ってみてはいかがです? 魔物も弱っておりますし」


「……別にどうでもいいし。気分じゃないだけ」

ルイフェルはそっぽを向いた。


アーシアが魔物にそっと微笑みかけると、それは静かに洞窟の奥へと消えていった──


……かに見えたが、すぐに振り返り、アーシアの顔をじっと見つめた。


「……どうしたの?」


アーシアが近づこうとすると、ルイフェルが前に出た。


「おい、まだ何かやる気か?」


だが魔物は、ルイフェルに頭を下げたように見えた。


「クゥン……」


ノームが静かに解析を始める。


「姫様。どうやら……この魔物、自ら“服従の意思”を示しておるようです。聖女様の魔力に惹かれておる様子」


「は? アーシアに?」


「え……私?」


魔物はぺたんと前足を地につけ、アーシアの前に座った。まるで「そばにいたい」と言っているかのように。


「……こいつ、吸収しなくても、俺の魔力に反応して自ら従うのか。ふぅん、珍しいやつ」


「じゃあ……配下ってことでいいんですね?」


「まあ、いいだろ。ついて来たいなら勝手についてこい」


魔物:ワン!(でも声はちょっと情けない)


「……ちょっとチワワっぽい?」



その後のやりとり:


ルイフェル:「チワワウルフだな、名前」


アーシア:「え!?かわいそうですよ、それ……」


ノーム:「ウルワ、などはいかがですかな?」


アーシア:「ウルワ……かわいい!」


ルイフェル:「ま、好きにしな」



帰り道、アーシアはふとルイフェルに問う。


「わたし、聖女……で、いいんですよね?」


ルイフェルは少しだけ歩く速度を落とすと、前を見たまま答えた。


「さあな。でも今のお前、ちゃんと“守ってた”ぞ」


「……!」


ノームは二人の後ろでくるくると回転しながら、静かに呟いた。


「なんとも、良きバランスですのぉ」

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