笑顔を守る会
――それから数日が経った。
戦火に包まれていたトライヤは、少しずつ復興の兆しを見せ始めていた。瓦礫は片付き、町には活気が戻りつつある。
アーシアたちは、それぞれトライヤのために力を尽くしていた。
天使ちゃんも町の人々に慣れ、おどおどした態度は薄れ、少しずつ会話もできるようになっていた。
そんなある日――。
広場で木箱を運んでいた天使ちゃんの耳に、猫耳の声が届く。
ミャーリ「天使ちゃん! アーシア様、大好きなんだね?」
天使ちゃん(びくっとしながらも)「えっ……あ、あの……はい……」
ミャーリ「ふふっ、私もだよ! ……それにね、実はこのトライヤの第五王女エルフィナも、なんだー♪」
天使ちゃん「お、おうじょ……さま?」
ミャーリ「今度、一緒に話そうにゃ!」
天使ちゃんは戸惑いつつも、心が少し温かくなるのを感じた。
──そして時は流れ、ついにその日がやってきた。
エルフィナの別邸で、三人は丸テーブルを囲み、アーシアの話で盛り上がっていた。
天使ちゃん「アーシア様って……笑うとすごく優しい光みたいで……」
ミャーリ「でしょでしょー! あの笑顔、ずっと見てたいにゃ〜」
エルフィナ「ふふ……わたくしも同感ですわぁ」
やがて三人は、同じ思いを胸に笑い合い、ひとつの結論に至った。
ミャーリ「……よし! “アーシア様の笑顔を守る会”を作ろうにゃ!」
天使ちゃん「えっ……そんな……でも……いいかも……!」
エルフィナ「当然! わたくしが会員番号1番ですわね!」
ミャーリ「いやいや! 1番は私にゃ!」
天使ちゃん「わ、わたし……ですっ!」
互いに譲らぬまま、顔を見合わせ、三人は思わず笑った。
温かく、穏やかな時間――。
夕暮れ、別邸の門前。
「また話しましょうね」と言い合いながら別れ際、エルフィナがふいに天使ちゃんに近づき、耳打ちした。
エルフィナ(小声で)「……ミャーリさんが、あなたが落ち込んでいるからって、この企画を提案したんですのよ。優しい方ですね」
エルフィナは微笑んだ。
天使ちゃんは胸の奥がじんと熱くなり――心の中で思った。
(……エルフィナ様も、充分優しいです……)
その想いを口にしようとした、その瞬間――。
――ドォォォン!!!
別邸が爆発した。
衝撃波と炎が一気に広がる。
天使ちゃん「きゃあっ――!」
咄嗟に、エルフィナが前にいた天使ちゃんを庇った。
次の瞬間、エルフィナの小さな体がぐったりと崩れ落ちる。
天使ちゃん「エルフィナ様!? いや……! だめ……!」
ミャーリは邸宅から少し離れた場所で天使ちゃんを待っていたため、爆発の直撃は免れていた。
だが、目の前で炎と煙が立ち上る光景に、ただ呆然と立ち尽くす。
天使ちゃんは涙で声を震わせながら、必死にエルフィナの名を呼び続けた。
天使ちゃん「エルフィナ様ぁ……っ!!」
赤く染まる空の下、悲痛な声だけが響いていた――。
──つづく
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