夜なべ聖女と浪費悪魔
「……資金が、もう……ない……」
宿屋の小さなテーブルで、アーシアは絶望的な顔をして財布をのぞき込む。
硬貨が数枚、ぺたんと転がるだけ。
ノーム(杖)もぽつりとつぶやく。
「姫様が食べ歩きで5日分を1日で使いましたからのぉ……」
「うるさいじじぃ、食費は人生の大事な出費だろ?」
どこ吹く風とばかりに、ベッドでゴロゴロするルイフェル。
アーシアは小さく、そして深くため息をついた。
(旅は始まったばかりなのに……このままじゃ、宿も泊まれなくなる……)
その夜。
アーシアは宿屋の部屋で、ランプの明かりの下に座っていた。
「えーっと……縫い目をそろえて、糸を引いて……よし……」
手元には布と糸と、よく売れるという手作りの人形キット。
近くの道具屋に「簡単な内職ないですか?」と頼んで、少しだけもらってきたのだった。
(私は……聖女。聖女なんだけど……)
指先にできた小さな絆創膏を見つめて、思わず苦笑いする。
──その頃。
ルイフェルは眠りにつこうとしていたが、部屋の明かりがずっと消えないことに気づく。
「んだよ……寝れねぇな……」
そっと部屋を覗くと、黙々と布に針を通すアーシアの姿が。
眠気は一気に消え、なぜか胸の奥が、少しだけもぞもぞした。
「……アーシア」
「わっ!? ルイフェル様!? もう……驚かさないでください…」
「なにしてんの? 遊んでんの?」
「違います! 生活費が……底をついてて……」
「……ふーん。アーシアって、変なとこ真面目だな」
「私は、聖女ですから」
そう言ってアーシアは、ちょっとだけ誇らしげに笑った。
それを見て、ルイフェルはなぜか口を閉じて、ふいっと目をそらした。
「……じい、アーシアに何か手伝えるか? 聞いてくれ」
ルイフェルは少し恥ずかしげに、ノームに頼んだ。
ノームはやさしく目が微笑む。
「姫様……わかりました。ですが、アーシア殿にご自分で言ってみては?」
「うっさい!」
夜は静かに、でもちょっとだけ暖かく更けていく。