「悪魔残党の牙」―魔槍と糸―
振り向けば、漆黒の甲冑をまとう悪魔兵と、ねじれた角を持つ魔族が数名。
背後には、双頭の魔獣や腐敗した翼を持つ異形がじりじりと迫ってくる。
その気配は、本隊が撤退した後だというのに、なお濃く、重い。
「撤退する奴らはさぞかし羨ましがるぞ……」
ねじれ角の悪魔が、口の端を吊り上げた。
「残って正解だなぁ〜」
どうやら、彼らは本隊とは別行動を取っていた残党らしい。
戦果を上げるため、あえて撤退せずに居残った――より凶暴で、より執念深い者たち。
天使ちゃんは、アーシアの背後でアワアワと両手を胸の前でばたつかせ、小刻みに震えている。
(ひぃ〜……こわい〜……)
アーシアはちらりと振り返り、彼女に微笑んで小さく頷いた。
「守る? お前一人でか?」
悪魔の嘲笑が響く。
アーシアは両手を合わせ、祈るようなポーズを取った。
「……結界」
光が瞬き、彼女の前に薄い壁が生まれる――が、力がまだ完全に回復していないため、結界はあっけなく砕け散った。
「なんだ? こいつ、結界も張れないのか?」
悪魔の一人が、巨腕を伸ばしアーシアを掴もうと迫る。
――その瞬間。
どこからともなく、ギュウウウウゥゥーーー!!!と空気を震わせる轟音。
「ぎゃああぁーー!!」
「て、手がぁーー!!」
突如現れた魔槍が、悪魔の手を貫いていた。
「汚い手」
無機質な声が、槍の中から響く。
槍の近くでズズンッと地面が低く唸り、空気が一変する。
闇の中から現れたのは、黒髪を揺らす小柄な少女――ルイフェル。
その手は妖しく光る黒槍をしっかりと握っていた。
「……全員まとめて消す。ひめな」
「……ラジャー」
ひめなの返事と同時に、槍先から黒い衝撃波が放たれ、地面を裂く。
「おい……なんで五大悪魔クラスがここに――」
悪魔残党たちの笑みが、わずかにひきつった。
ルイフェルはわずかに笑みを浮かべ、アーシアへと視線を向ける。
「アーシア、下がってな。……こいつら、我がやる」
アーシアの胸に安堵が灯り、同時にルイフェルの無事に涙がこぼれた。
胸に手を当て、小さくつぶやく。
「ルイフェル様……」
その嬉しそうなアーシアの横顔を見て、天使ちゃんは少しだけ切ない気持ちになる。
「さあさあー、誰から消えたい? それともまとめてがいいか?」
ルイフェルは槍をブンブンと回しながら挑発する。
刃が空を切るたび、ブーン……ブーン……と低い唸りが響き、悪魔たちは尻込みする。
紫色の髪をオールバックにし、紫色の瞳を持つ女悪魔が前へ進み出た。
貴族風の服を身にまとい、一礼する。
「あのー、あなた様の配下になりたく存じます」
「こいつ……斬れ」
ひめなが低く言う。
ルイフェルが槍を一閃――しかし、女悪魔はひらりとかわし、なんと槍の上に立った。
「足で踏むな」
ひめなの声が鋭く響く。
「ふっ…これは失礼」
女悪魔は軽く一礼して地に降り立つ。
「失礼のお詫びに……」
女悪魔の指先に、いつの間にか細長い糸が絡んでいた。
次の瞬間、その糸は悪魔残党たちの体を絡め取り、動きを封じる。
糸を引くと、食い込んだ糸が彼らの体を裂き、悲鳴を上げさせながら塵へと変えていった。
「ふーっ……いい音色だ」
女悪魔は満足そうに吐息を漏らす。
「配下にはしねーよ!!」
ルイフェルが即答する。
「唐突ですね」
女悪魔はニヤリと笑った。
つづく
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