己の力で滅せよ・過去を越えて
(ヴァルゼインの身体から黒き魔力が溢れ、辺りの瘴気を巻き上げる。土煙に混じり、うごめくような闇が集まっていく)
ヴァルゼイン
『まだ、まだだ! 周囲に満ちる負の感情……それが我が力! 吸い上げれば、無限に──!』
(だがその時、ルイフェルが不敵に笑いながら、魔槍ひめなを構えた)
ルイフェル
『そんなものは、もうない!』
(ヴァルゼインが驚いた表情を浮かべたその瞬間、魔槍ひめなが周りの邪気、闇を吸い込んでいるのが見えた)
ひめな
『ずっと吸ってたぁ』
ルイフェル
『そうゆうことだぁ! 魔槍デビルマスターひめなは、あんたの力を吸収できるんだよ!』
(闇の気配が、逆流するかのように魔槍に集まっていく)
ひめな
『やる』
ルイフェル
『そして──! ひめなは吸収した力を使い、撃破する!!』
(ルイフェルが指を差し、言い放つ)
ルイフェル
『ヴァルゼイン! 己の力で滅せよ!!』
ひめな
『ラジャー』
(禍々しくも妖しく輝く闇色の槍が、ルイフェルとともに突撃する!)
(ヴァルゼインが必死に防壁魔法を展開するも、それは無効化される。黒き槍が空を裂き──)
ヴァルゼイン
『う、うわああああああああああああっ!!!』
(音が空間を振るわせる)
ギュイイイイイィィーーーッ!!
(黒き槍は、まるで美しい楽器のように澄んだ音を奏でながら、ヴァルゼインの身体を貫いた)
(その咆哮は、空をも震わせる絶叫となり──やがて、ヴァルゼインの姿は闇に溶け、完全に消滅する)
ルイフェル
『厄介な悪魔だったな』
ひめな
「ルイフェルが下手くそ」
ひめな
『まだまだ使えてない』
(ルイフェルがニヤリと笑う)
ルイフェル
『そうだな〜、魔槍デビルマスターひめな。まだまだ使えてなかったなぁ』
(ふたりは静かに立ち尽くす。だがその周囲に、もうあの災翼の気配はなかった)
──場面は変わり、避難所。
ナリア
「アーシア様が、目を覚ましました!」
(駆け寄ってきたナリアの報告に、あめのとミャーリがすぐに立ち上がる)
あめの
「行こ、ミャーリちゃん!」
ミャーリ
「うんにゃ!」
(ふたりは急いで、アーシアの元へ向かった)
(アーシアはぼーっと天井を見つめていた。意識はあるが、どこか虚ろで、何かを探しているようだった)
(その耳に、避難所内から聞こえてくる──たくさんの泣き声)
「おかあさーん……!」
「おとーさーん!!」
「おにいちゃーん!」
「あんた!目を開けてよぉぉ……!」
(その叫びは子どもたちのもの、大人のもの、老いた人のもの、様々だった)
(アーシアは、それを聞いたまま、肩を震わせる)
アーシア
(ぽろぽろと涙を流しながら、小さく呟く)
「私は……私は……何もできずに……力つきて……寝ていました……」
(その言葉を遮るように、あめのがアーシアの肩に手を置いた)
あめの
「なぁ〜、アーシアちゃん。あんたのせいやないでぇ」
(続けてミャーリが、涙ぐみながらアーシアにすがる)
ミャーリ
「お母さん、助けてくれたにゃ、アーシア様。アーシア様のせいじゃないにゃ!」
ナリア
「そうです。アーシア様……」
(それでも、アーシアはまだ顔を伏せ、唇を噛む)
アーシア
「で、でも……」
(そのとき、横になっていたミャーリの母──ナリアの隣で横たわっていた女性が、静かにアーシアを見つめて語りかけた)
ミャーリの母
「アーシア様……今からですよ。力を出すのは」
(やさしく、でも芯のある声だった)
ミャーリの母
「過去は過去。変えられないなら──今からです!
泣いてちゃダメですよ。みんなで、頑張りましょう。ね?」
(アーシアは顔を上げ、目を見開く。そして──)
あめの
「そうや!今からやるんや!!」
(アーシアは拳で涙を拭い、力を込めて頷いた)
アーシア
「……わかりました! そうですね!」
(その瞬間、あめのの表情に何かが閃く)
あめの
「そうや!」
(勢いよく指を立てて言う)
あめの
「リュミナ配下のあの子、呼んだらええやん! 今の状況、なんとかできるかも?」
アーシア
「ほんと? どうしたら……?」
あめの
「別で、また召喚や! ──なごり惜しいけど、うちとあの子、交代や」
(アーシアが戸惑った顔をする)
あめの
「アーシアちゃんには、まだ二人も召喚し続けられへんしな。それに、あの子なら──癒やしの力で、今の状況を変えられるかもしれん。ちょい性格は……めんどいやけど」
(すねたように笑うあめのを見て、ミャーリが寂しげに言った)
ミャーリ
「えぇ〜、あめのちゃん……寂しいにゃ……」
あめの
「ありがとなぁ〜」
(そう言って、あめのは優しくアーシアの前に立つ)
あめの
「アーシアちゃん。……リュミナ様にちょい言っとくわ。召喚、できるように」
(あめのはアーシアのお腹あたりにそっと手をあて、目を閉じる)
あめの
「……よし。これで、オッケーや!」
(パッと笑顔になって手を離す)
あめの
「じゃあ、これで! 楽しかったでぇ!! また呼びや!」
バシュゥンッ!!!
(眩い光とともに、あめのの姿が一瞬にして消えた)
(アーシアの体がふわりと光を帯び始める)
アーシア
(目を閉じ、呼吸を整える)
「……!」
そのとき魔導スピーカーからの放送が流れてきた。
──つづく。
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