災翼の咆哮
土煙が舞い、黒い瘴気が地を這うように広がった。夜の帳すら飲み込むような暗紫の魔法陣が地を割り、地鳴りと共に巨大な影が浮かび上がる。
──現れたのは、災翼のヴァルゼイン。
その姿はまさに悪夢の権化。
身の丈は三メートルを優に超え、歪んだ骨の翼と黒い羽根を背に揺らし、仮面めいた骸骨の顔の奥では、赤く光る双眸が怪しく明滅していた。
皮膚は暗紫に染まり、表面には魔力が滲み出すように発光するヒビ割れが走っている。
鎧のように鍛え上げられた上半身に対し、下半身は漆黒のローブに覆われ、宙に浮かぶその様は、まさに災厄そのもの。
硫黄と墨を混ぜたような腐敗の臭気が、風に乗って広がる。
「──フッ、愉快だな……」
ヴァルゼインは潰れた王宮を見下ろし、牙のような笑みを浮かべた。
その真上から、軽やかな声が降る。
「よお〜災翼のヴァルゼイン。久しぶりだなぁ〜」
声の主は、宙に浮かぶ黒髪の少女──ルイフェル。
金色の瞳に冷たい炎を灯し、手には黒き魔槍ひめな、
「ほう……臆せず来たか。弱き悪魔よ」
ヴァルゼインは顔を少しだけ上げ、その瞳に邪悪な輝きを宿す。
「なぁ〜ニヤニヤしてるけど、もうすぐ消えるのに、何がそんなに楽しいの?」
(ルイフェルは魔槍を軽く構えた)
「笑いが起きるだろ、この状況。この国も、お前も、滅ぶのだからな」
(ヴァルゼインは両翼を広げ、重く響く声で嗤った)
「負の感情が満ちたこの地において、この《ヴァルゼイン》──無敵よ!!」
「……ほー。そうくるか〜」
(ルイフェルの口元がゆるく吊り上がる)
その瞬間、ノームからの念話が走った。
『ルイフェル姫様! ヴァルゼインの能力……以前より強化されております!気をつけてください!』
「わかった!」(ルイフェルが返すや否や)
「──虚空断裂」
(ヴァルゼインの声と同時に、空間が裂けるような音が響いた)
裂け目から放たれたのは、無数の風の刃。それは剣のように鋭く、斬撃の嵐となってルイフェルたちへ殺到する!
「ひめなっ!」
(即座に魔槍ひめなが無言で結界を展開。風の刃がそこに衝突し、火花とともに弾ける)
「おいおい〜いきなりそれかぁ〜」
(ルイフェルが肩をすくめる)
「その程度で終わると思うな……」
(ヴァルゼインが浮遊しながら空中を滑るように前進し始める)
──激突の予兆が、空気を張り詰めさせた。
闇の災翼と、地球の魔界の姫と魔槍。
次なる一撃が、戦場を飲み込む。
「虚空断裂──第二波」
ヴァルゼインが両翼を大きく広げた瞬間、空間がさらに裂け、斬風の群れが連続して放たれる。
裂け目は次々と開き、風の刃が雨のように降り注いだ。
「──ッ!」
ルイフェルは咄嗟にひめなを構え、地面を蹴る。
魔槍・ひめなが半円状の結界を展開し、風刃を弾きながら突き進む。結界は槍そのものから発される闇の盾──ひめなの意思による自動防御だった。
「……やるな!デビルマスター!」
(ルイフェルが笑みを浮かべながら、宙に跳び上がる)
そのままヴァルゼインへ向けて魔槍を投擲!
「──喰らえぇっ!」
槍は雷鳴のような衝撃波を放ちながら飛び、ヴァルゼインの胸元へ――
──ズガァン!!!
爆音とともに、紫の火花が弾けた。
だが。
「ふん……貫けぬか」
(ヴァルゼインは表情一つ変えず、胸から魔槍を抜き取った)
「この肉体は、呪いと風の魔力で強化されている……お前たちの攻撃など──」
ヴァルゼインの言葉が終わる前に。
「──“分身”」
ルイフェルが小さくつぶやいた。
ヴァルゼインの背後、足元、そして真上から──三人のルイフェルが同時に現れた。
「……!? なんだと……ッ」
それは、ひめなの槍としての能力。
魔槍ひめなが作り出す“魔力の残像”──見た目も動きも本物と見紛うほどの実体化分身。
三方向からの同時攻撃。
ヴァルゼインが応じる間もなく、三人のルイフェルが同時に突撃!
「──魔槍三連突!!」
ルイフェルの叫びとともに、三本の魔槍がヴァルゼインの身体を貫いた。
ズバァーーー!!!!
ヴァルゼイン
「グアァアーーー!!!」
(仮面のような顔に亀裂が走り、骨のような音が大気に響き渡る)
バキィィィン!!!
(ヴァルゼインの巨大な身体が仰け反り、黒き羽根が吹き飛ぶ)
ヴァルゼイン(苦しみ、吠える)
「ま……まだだァアアァァ!!!」
(身体中から黒風が溢れ出し、地面をえぐり始める)
ひめな(冷静に)
「しつこい」
(槍を構える。無言の圧力がヴァルゼインを包み込む)
ルイフェル(口元に不敵な笑みを浮かべ、
ヴァルゼインを睨みつける)
──つづく
【外部サイトにも掲載中!】
イラストはこちら(Pixiv)
https://www.pixiv.net/artworks/132898854
アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。
ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!
▼アルファポリス版はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191




