災翼、目覚めの陣
謁見の間に緊張が走った、その瞬間──
(大臣が突然、苦悶に顔をゆがめ、膝から崩れ落ちる)
大臣「ぐっ……あああああああ!!」
(全身を震わせながら、口から大量の血を噴き出す)
エルフィナ(驚愕)
「だ、大臣!?」
その血は床に流れながら、不自然な軌跡を描き始めた。
赤黒い光がにじみ出し、見る間に巨大な魔法陣を構成していく──
ハエ男爵(顔を青ざめさせて)
「やばいです。エルフィナ様、逃げましょう。……大きな“闇の力”が迫ってます……!」
エルフィナ(肩が小刻みに震えながら)
「お父様! 逃げましょう!!」
(魔法陣が黒く輝きを放ち、床が割れるような轟音が響く)
地鳴り「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴーゴォ〜……!!」
(突風が吹き荒れ、空間そのものが軋むような気配)
ハエ男爵(エルフィナをすかさず抱き上げ)
「行きますよう〜」
エルフィナ(慌てて振り返り)
「お、お父様もお願いします!」
(ハエ男爵、やや渋い顔をしながらも右手を伸ばす)
(王様を猫の子のようにつまんで持ち上げ、左腕では大切そうにエルフィナを抱える)
ハエ男爵「さぁ、脱出しますよ」
王様
「わし〜、王様だよねー? 雑じゃなかろうか?」
エルフィナ(真剣な表情で)
「お父様、気にしないで! ハエ男爵様に身を任せてください!!」
(後方に声を飛ばす)
エルフィナ「カク、スケも早く逃げて!」
(その背後で、魔法陣が闇の渦を形成し始める)
***
──その頃、トライヤの上空。
(空を切るように一陣の風が吹き抜ける)
風音「コォーオオオー……」
(空を漂う黒き悪魔の翼。その中心に、ルイフェルと魔槍“ひめな”の姿)
ひめな(低く、感情のない声で)
「……大きな魔力、感知」
ルイフェル(目を細めて)
「どこだ?」
ひめな「……城」
(風が止む。静寂のなかに緊張が満ちる)
ルイフェル「ついにボスかぁ〜。行こう!」
(槍を構え、微かに笑う)
ルイフェル「こっちは大方片付いたし……あとは第二王女に任せても大丈夫そうだ」
***
──避難所、入り口付近──
あめのはハンマーを手に、男たちや近衛兵たちとともに、押し寄せる魔物たちを必死で食い止めていた。だが、その戦いの最中、背後から淡い光が放たれる。
私も、力になりたいにゃミャーリは心から思った。
ミャーリの母は、小瓶を手にそっと差し出した。
その瞳は優しさと、わずかな震えを湛えている。
母
「ミャーリ、これを……これを飲めば、あなたの神聖力が戻るわ。
今のあなたなら、きっと……その力を自分でコントロールできるはずよ」
一瞬だけ躊躇ったミャーリだったが、すぐに力強く頷いた。
ミャーリ(目を輝かせて)
「わかったにゃ! ありがとう、お母さん!!」
(胸に手を当てて)
「みんなを……アーシア様を、ぜったい助けるにゃ!」
そう言うと、ミャーリは迷いなく薬を飲み干した──
ミャーリ(手を胸に当てながら)
「……お母さん……。わたし……ずっと、どこかで待ってたのかも……」
(その胸に響いた母の言葉が、心の奥の鍵を解いていく)
ミャーリ
「この手で……今度は、守る!」
(光が爆ぜるように広がり、ミャーリの身体を包む。神聖力が一気に解放され、彼女の足元に美しい魔法陣が浮かび上がる)
ミャーリ
「結界、展開!」
バシュウッ!
突如として周囲を包むようなドーム型の結界が広がり、避難所の入り口を覆った。敵の魔物が結界にぶつかるたびに、バチバチと火花のような魔力が弾ける。
ミャーリ(額に汗を浮かべて)
「はぁ、はぁっ……まだ、安定しない……!」
その瞬間、結界のすぐ外側にいたあめのが駆け寄ってくる。
あめの(にっこりと笑って)
「ウチ、ミャーリちゃんのこと、信じてるさかい!」
ミャーリ(振り向いて驚いたように)
「あめのちゃん……!」
あめの(手にしていたハンマーを片手で抱える)
「結界、強いけど、ちょっとぐらついとる。補強してあげるわ」
(彼女のハンマーが魔力を放ち、結界と共鳴する。魔力の波紋が広がり、ミャーリの結界が一層光を増して強固になる)
ミャーリ
「ありがとう、あめのちゃん……!」
あめの(くるりと背を向けながら、肩越しに)
「ほな、ウチは外で待機や」
ミャーリ
「あっ!あめのちゃん!!外で待機って…」
あめの
「大丈夫やぁ、なんか、でかいのが来る気ぃしてな──結界の外にでてたねん。ウチが、ぶっ飛ばしたる!」
その言葉と同時に、大地がぐらりと揺れた。
ズズゥン……!
遠くの地面を踏み砕くような重い足音とともに、闇の中から巨体が現れる。
???
「グォォォ……ッ!」
姿を現したのは、全身を岩のような筋肉で覆い尽くした巨悪魔。角は一本、顔の中央には縦に大きな一つ目がぎょろりと輝く。肩に担ぐのは、巨大な戦斧──
あめの(その姿を睨みつけて)
「来たな……」
敵悪魔
「オレの名は……ギルグラス=トゥロス! 轟斧の名に懸けて……すべてを砕きに来たァ!!」
(叫ぶように斧を振り上げると、地面が割れ、衝撃波が空を裂いた)
あめの(腰を落とし、構えながら)
「ミャーリちゃんの結界、壊させへんでぇ……」
ミャーリ(内側から見つめながら)
「あめのちゃん……気をつけて……!」
あめの(ニヤリと笑い、斧の悪魔に向かって一歩踏み出す)
「さあ、来いやぁ……ウチがぶっ壊したる!」
つづく
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イラストはこちら(Pixiv)
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