私は聖女ですよね?
「起きろアーシアァァ!!」
ガンガンガンッ!!
宿屋のドアが乱暴に叩かれ、朝から怒号が響く。
「ふぇっ!? あっ……おはようございます……」
寝ぼけまなこのアーシアがベッドから上体を起こす。
「おはようございます、じゃないぞ! アーシア!
もういつものだ! 早くして!」
「……はぁ。わかりました」
アーシアはため息をつきながら、寝巻きのまま立ち上がる。
──こうして始まる、ルイフェル様の「朝のお世話」タイム。
聖女アーシア、まずは顔を拭いてあげる。
次に歯磨き。文句を言いながらも、ルイフェルは口を開ける。
「ガラガラ……ぶくっ……ぺっ! うぇ〜この水まずい!」
「我慢してください……」
次は朝ごはん。スプーンに乗せた粥を差し出す。
「あーんして」
「ふむ、まあ悪くない……もっと!」
(私は……聖女ですよね?)
心の中で小さくツッコむアーシア。
そして風呂場へ──。
湯気の立ちこめる湯屋。ルイフェルがふんぞり返りながら、
「アーシア、背中!」
「……はい?」
「だから背中! かゆい! かいてくれ!」
「……はぁー、はい……」
アーシアはスポンジを持って、背中を軽くこする。
「そこじゃない、そっちだぞぉ!」
「わかりました……」
(くっ……私は聖女、私は聖女……っ)
ぶつぶつと念仏のように唱えるアーシアに、
「おい、なんか言ったかー?」とルイフェルが振り返る。
「い、いえっ!? なんでもないですっ!」
そんなふたりのやり取りを、隣で見ていたノーム(杖)が、突然ピクリと反応する。
「姫様ァ! 魔物を感知しましたぞぉ!!」
アーシア「えっ……!?」
ルイフェル「おおっ、ようやく来たか! 今日の運動相手はどこかなぁ?」
風呂場にまで響く、戦いの始まりを告げる気配。
ゆっくりと、また旅が動き出す──