町で買い物
「はぁ……」
何度目かのため息をつきながら、聖女アーシアは石畳の道をとぼとぼと歩いていた。
ノーム(杖)がギョロリと目玉を動かして話しかける。
「どうされましたかの? アーシア殿」
「だって……これから“魔物の棲家”に向かうんですよ……怖くて、怖くて……」
アーシアの瞳にはじわりと涙が滲んでいた。
(──あの時のことを思い出す)
──王城、謁見の間。
ルイフェルとアーシア、ノームが王の前に立つ。
デエル王「……ルイフェルと申す者よ。そなたの力、確かに見届けた。」
ルイフェル「ふーん。それより王ってやつ、お前の話が長い!」
王「……なに?」
ルイフェル「強い奴と戦わせろ! それだけだ!」
ざわつく王宮。
臣下が一人、たじろぎながら進み出て言った。
「王よ、東方の辺境に、“魔王級”とされる魔物が一体、潜んでいるとの情報が……!」
王「なんと!……そういうことならば!」
まさかの勢いに流されるように、旅の許可が出た。
(……はぁ、どうしてこんなことに)
アーシアが思考の迷路に沈んでいると、隣にいたはずのルイフェルの姿が消えていた。
「……ルイフェル様?」
──そのころルイフェル。
屋台の前で、目を輝かせていた。
「それくれ! うまそうだなぁ!」
「お嬢ちゃん、お金はあるのかい?」と屋台の兄さんが首をかしげる。
「金? はぁ? ないぞ、そんなの! むしろ貢げ!」
なぜか威張る。
そこに、息を切らしてアーシアが駆けつける。
「ルイフェル様っ! どうしていきなり消えるんですかっ!」
「これ欲しい!」
「……わかりましたけど、せめて一言くらい……!」
アーシアは財布を取り出し、小銭を渡す。ルイフェルは嬉しそうに食べ始める。
──だがその数秒後には、
「あっちのも美味そうだな! それくれ!」
「ま、待って! もう……!」
左右の屋台に走り回るルイフェル。
翻弄されるアーシア。すっかりクタクタになりながら、財布をのぞきこむ。
「うぅ……王様からもらった旅の資金が……もう……」
涙目でうなだれる聖女。
それを見たルイフェルが、口いっぱいに食べ物をほおばりながら笑う。
「アーシアは泣き虫聖女だな~」
アーシアはぷいっとそっぽを向きながら、
「……誰のせいですか……」
小さく拗ねた。
ノーム(杖)は苦笑しながらつぶやいた。
「……前途多難ですのぉ」
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