修行そしてまたね
ミャーリの実家──村長の住まい。
静まり返った家の中、2階の奥の部屋。
ベッドの上で横たわるルイフェルの傍らで、アーシアは三日三晩、ずっと神聖魔法を使い続けていた。寝ずの看病。瞳の下には疲れの影が色濃く刻まれている。
ミャーリ(心配そうに)
「アーシア様……あれじゃ、倒れちゃうにゃ……」
その様子を見ていた死神ちゃんは、珍しく真剣な顔でしばらく考え込んだあと、ふいに「ひらめいた!」と言わんばかりに顔を上げた。
スタスタと2階へ上がり、ルイフェルとアーシアの部屋へ入ってくる。
死神ちゃん
「お〜い、アーシアちゃ〜ん♪」
アーシア(振り向き)
「えっ……な、なんですか……?」
言い終わる前に、死神ちゃんはアーシアをひょいっと抱きかかえ、隣の部屋のベッドにポーンと寝かせる。
アーシア(驚きながら)
「わ、私はルイフェル様のそばにいなきゃ……!」
死神ちゃん(にっこり)
「ダメ〜♪ だいじょ〜ぶ〜♪ いい案、思いついちゃったから〜♪ まずは〜横になろ〜♪」
その青い目を見たアーシアは、まるで催眠にでもかかったかのように、静かに目を閉じて眠りについた。
ミャーリも部屋の前まで来て様子を伺っていた。
ミャーリ(小声で)
「だ、大丈夫かにゃ……?」
死神ちゃんはミャーリの頭をポンポンと優しく撫でると、ミャーリの父親──村長の元へと向かい、ある場所を訪ねた。
──翌朝。
死神ちゃんは、ミャーリとアーシアを連れて村を出発していた。
たどり着いたのは、美しい滝が流れ、花々が咲き誇る静かな場所。川のそばには聖女の像が立っている。
死神ちゃん
「くんくん……ここだね〜……嗅いだことある〜……リュミナ様が〜修行してた場所と〜そっくり〜♪」
背負っていたアーシアをそっと降ろし、起こす。
アーシア(目を覚まし)
「……はっ、ルイフェル様!? ここは……どこですか……?」
あたりを見渡し、戸惑うアーシア。そして、罪悪感と疲労が一気に押し寄せ、彼女はポロポロと涙を流し始めた。
ミャーリが心配して近づこうとしたが、死神ちゃんが首を横に振り、静かに制止する。
アーシアが泣き止むのを見届けてから、死神ちゃんはそっと近づいてアーシアの頭を撫でた。
死神ちゃん(にっこり)
「ちょ〜と〜スッキリ〜したぁ〜?」
アーシア(涙をぬぐいながら)
「ここ……どこなんですか……?」
死神ちゃん
「ここね〜、リュミナ様が〜修行してたとこに〜似てるんだよ〜」
死神ちゃんが語るには――
ルイフェルの体に回った毒を完全に消すには、「ルイフェル専用の特殊な武器」が必要。
その武器の力を借りることで、毒を中和し、打ち消すことができるという。
ただし、その武器を作れるのは「火の神に仕える鍛冶師」のみ。
そしてその鍛冶師を召喚するには、アーシアが神聖力をさらに高め、召喚の資格を得なければならない。
だからこそ――
死神ちゃんはアーシアをここへ連れてきたのだった。
アーシアは涙を拭い、静かに立ち上がると、聖女像の前にひざまずいて祈りを始めた。
死神ちゃん(そっと見守りながら)
「……かわいいな〜……抱きつきた〜い……♡」
ミャーリ(すかさず)
「ダメにゃーっ!! 今、邪魔したら何回目だと思ってるにゃー!!」
その頃、村長の家では──
ルイフェルがうなされながら寝ていた。
ルイフェル(うわごとのように)
「アーシア……逃げろ……死神が……抱きつきに来るぞー……」
隣で看病していたナリアが、苦笑しながらそっと額の汗を拭った。
ナリア
「……ふふ、どんな夢を見ているんでしょうね……ルイフェル様……」
──修行の場。
アーシアは祈りを続けるうちに、大地の温もり、空気の柔らかさ、自然の声を感じ始めていた。
心が透き通っていく。身体がぽかぽかと温かくなり、まるで生まれ変わるような感覚。
その変化に、死神ちゃんがすぐに気づいた。
死神ちゃん(ニッと笑って)
「うんっ! いけるよ〜アーシアちゃ〜ん♪」
アーシア(目を開けて)
「ほんと……ですか?」
死神ちゃん(さらに満面の笑み)
「よかったね〜♡」
そして、召喚の方法をアーシアに教える。
死神ちゃん
「リュミナ様は〜だいたい〜こんな感じでぇ〜……って、感じだったかなぁ〜♪」
アーシア
「わかりました。ありがとうございます!」
そして、ふと問いかける。
アーシア
「それで……死神ちゃんさん? そろそろ時間ですか……?」
死神ちゃん(少し寂しそうに)
「う〜ん……知らないうちに〜消えちゃおっかな〜って思ったけど〜……よくわかったねぇ〜……力、ついたねぇ〜」
ミャーリちゃ〜んのとこまでは〜大丈夫〜
と、言うやいなや。
両脇にアーシアとミャーリを抱えて、死神ちゃんはものすごい速さで駆け抜けた!
──そして、ミャーリの実家前。
死神ちゃん
「と〜ちゃ〜くぅ!」
アーシアとミャーリの頭をなでなで。
死神ちゃん
「アーシアちゃ〜ん、ミャーリちゃ〜ん、2人とも〜いい子〜いい子〜……」
「じゃあね〜」
アーシア&ミャーリ
「ありがとうございました!」
死神ちゃんは満面の笑みを残して、ふわっと光に包まれながら、静かに姿を消した。
ミャーリは半べそをかきながら空を見上げ、
アーシアは心からの感謝を胸に、再びルイフェルの元へ歩き出した。
──つづく。
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