死神ちゃん
グライモアが動こうとした――
魔法陣を展開しかけたその瞬間。
「……斬った〜ことぉ〜……わからな〜い?」
死神ちゃんがニヤリと笑いながら、すでに鎌を下ろしていた。
グライモアの身体はそのまま光に包まれ、霧散するように消滅していく。
運転席を覗くも、そこには誰もいない。
「……やっぱ〜……そだよ〜ねぇ〜」
死神ちゃんは軽く息を吐き、くるりと背を向けて走り出す。アーシアたちのいる車両へ。
そして――
「ちょ〜っと、失礼〜♪」
アーシアとミャーリを両脇に抱え、
窓と壁ごと蹴破り、汽車から飛び出す直前にルイフェルに言い放つ。
「脱線するよぉ〜汽車〜」
間髪入れず跳躍。空中を舞うように飛び出した。
「……お、おい!?」
ルイフェルもノームと鞄を手に、慌てて後を追って飛び出す!
地面に降り立ち、死神ちゃんはアーシアとミャーリをルイフェルのそばへそっと下ろす。
そして、線路の先を見つめ――
「ちょ〜っちぃ、行ってくる〜」
青い目が鋭く光る。
ビューッ!
疾風のごとく駆け出した死神ちゃんは、すぐに汽車に追いつき、後部車両の屋根に飛び乗る。
「だんだんだ〜だ♪」
軽やかな音とともに駆け抜け、運転席を飛び越え、先頭車の前に回り込んで――
鎌を構える。ちらりと湖を横目に見る。
「だる〜いけどぉ〜……飛ばしちゃうねぇ〜」
ガチチチッ……チィーーン!!
巨大な金属音とともに、死神ちゃんの鎌が汽車に命中。
「ぬりゃ〜……」
気の抜けた声と同時に、汽車はその軌道を外れ、湖へ――
ドバァ〜〜ン!!
音を立てて、次々と車両が沈んでいく。
死神ちゃんはその様子を見届けると、くるりと回って再び走り出す。
⸻
場面転換
「……あの〜、死神ちゃんさんは……?」
アーシアが心配そうに問いかける。
「すぐ来るはず……だと思う。こっちに……」
ルイフェルが言いかけた、その背後から――
「走った〜まま〜だと〜汽車、あぶな〜いから〜……
湖に〜沈めた〜♪」
死神ちゃんが、いつの間にか戻ってきていた。
「ご、ご苦労様です……!」
アーシアが深くお辞儀する。
「えへへ〜。リュミナさまなら〜、そ〜したいかなぁ〜って……」
「……は、はい。そう……ですけど……私はリュミナさんじゃ……」
「……えっ!?」
死神ちゃんが突然、犬のようにアーシアを嗅ぎはじめる。
「ちょっ……!? な、なにしてるんですかぁっ!」
アーシアが戸惑いながら、顔を赤らめる。
「おいっ!! や、やめろッ!」
ルイフェルが怒鳴る。
死神ちゃんはふと嗅ぐのをやめ、上を見ながらボーっと考えこむ。
「……なんか〜……混じってな〜い……?」
ルイフェルが溜息まじりに、事情を簡単に説明する。
「ふぅ〜ん……そ〜ゆうことぉ〜……まぁ〜……アーシアちゃん、かわいいしぃ〜……いっか〜♪」
納得したのか、アーシアにぴったり腕を組んでくる死神ちゃん。
「……おいっ、死神! もう時間だ! 召喚の時間が切れるぞ!」
ルイフェルが嫉妬まじりに叫ぶ。
「え〜!? そんなの〜、ちょ〜こ〜ないよぉ〜?」
体をポンポン叩いて確認する死神ちゃん。
ノームが浮かびながらポツリ。
「姫様、リュミナ様の配下ですし……少し事情が違うのかもしれませんな〜」
「……マジか……」
ルイフェルが複雑な表情で唸る。
「べったりくっつくなー!! そこー!!」
「まぁまぁ〜ヒステリ〜はダメだよね〜♪ アーシアちゃ〜ん♡」
肩を抱いて、アーシアのほっぺをツンツン。
ルイフェルの額に青筋が浮かぶ。
「くのぉー!! さわんなってー!! アーシアに!!」
「アーシア、聖女として言ってやれ!!」
「……はい。聖職者の身体に、むやみに触れてはなりません!」形式的なことを、言うアーシア。
「……そっ、そういうんじゃないんだよぉぉ……」
しゅんとなるルイフェル。
死神ちゃんはケタケタ笑いながら、
「アンタら〜……おも〜ろ〜♡」
「ま、召喚される前〜、親とケンカして家出中だしぃ〜……旅〜つきあっちゃう〜♪」
その頃、ミャーリは空を見上げていた。
「……綺麗にゃ〜……星が、いっぱいにゃ〜……」
――つづく
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