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汽車にて

アーシアたちは、赤髪の女の手がかりを追い、ミャーリの故郷へ向かう汽車に乗っていた。

ミャーリは「父様と知り合いには会わないから」と言っていたが、なんだかんだ言いながら同行している。


 


ルイフェルは座席で目を閉じ、顔をしかめていた。


「うげー……目がまわる〜……気持ち悪い……。地球の乗り物より、ゆれる……」


だが、プライドゆえに、口には出さず耐えていた。


 


「大丈夫ですか? ルイフェル様。……乗り物酔いですか?」


アーシアが心配そうにのぞき込む。


 


「だ、だ、だ、いじょ、ぶ……!」


言葉に詰まりながらも、ルイフェルは腕を組み、平然を装う。が、内心ではぐるぐる状態。


ノームは、いつも通り杖のフリをして静かにしている。


 


ミャーリは窓のそばでしっぽをふりふりしながら、景色を楽しんでいた。


 


そのとき、車内に魔法での音声アナウンスが響く。


「長いトンネルに入ります。安全のため、窓をお閉めください。」


 


ミャーリは、名残惜しそうに窓を閉めながら、しゅんとした声で言った。


「はぁー……つまらないにゃ〜……景色みれないにゃ〜……」


 


汽笛が鳴り、汽車がトンネルへ突入していく。


車両の明かりが、チカチカと不安定に点滅し始めた。


 


ルイフェルは青ざめながら、心の中で念じる。


「ぐぅ〜……気持ち悪い〜……けっこう、ゆれゆれ〜……うぅ〜……

だが! こんなゆれ! つまらぬ揺れダァ!!」


 


視線が完全にあさっての方向を向いているルイフェルを見て、アーシアが声をかける。


「ルイフェル様〜? ルイフェル様〜!? 大丈夫ですか?」


アーシアが心配で、ルイフェルの肩をゆさゆさ揺らす。


 


「やめっ……やめろ……いい子だから、ゆら〜……!」


ルイフェルが苦しげに言う。

「ちょっと……泡が口から出そうになる……」


 


「えっ……泡……?」

「アーシア……? ん……? ゆら……?」


 


冷や汗を垂らしながら、ルイフェルはなんとか声を振り絞る。


「……ゆらゆら……いい気持ちだ!」


 


「は、はい……?」


アーシアはキョトンとした顔で答える。


 


ルイフェルはそっと目を閉じ、悩む。


「(やべ〜……アーシアに言っちゃおうか……?)」


案一:

「アーシア!? ん? すまない……フッ……酔ってしまった……」

(※少しカッコよく、ポーズを取る)


案ニ:

「アーシア〜? はい? あのねぇ〜……よっちゃたぁ♡」

(※可愛く攻める)


案三:

「アーシア〜〜ダメだー!! 酔ってしまった〜〜ぐわ〜〜!!」

(※真正面ストレートに叫ぶ)


 


「どれがいい!? 自分!?」


と、内心で迷っているその時――


 


車両の奥で、“異変”が起きていた。


アーシアたち以外の乗客が、奇妙にゆらりと立ち上がる。


それは――死者たちだった。


 


アーシアが叫ぶ!


「光よ! 死者たちをふたたび眠りへと……!」


祈りのポーズを取り、神聖魔法を放つ。

しかし、光は死者たちにまったく効いていない。


その様子を見たノームが、ぐるぐると回転しながらアーシアに叫ぶ。

「効いてませんぞぉ……!! 神聖力が……通っておりませぬっ!!」


アーシアはすぐさま両手を構え、

「結界、展開っ!」


淡い光が弧を描き、アーシア・ミャーリ・ルイフェル・ノームを包み込むように展開される。


 


「ルイフェル様っ! 私の力だけでは……!」


アーシアが切迫した声で叫ぶ。


 


ぐらりと揺れるルイフェルが、小さく呟く。


「アーシア……リュミナの力を……貸してもらう……いちかばちかの賭けだがぁ……」


 


「はいっ!」


アーシアが力強く答えると、

ルイフェルは彼女のお腹の辺りにそっと手を当て、詠唱を始めた――


 


「……これより先は、生と死の狭間。

契約により、死の執行者をここに降ろす――

鎌を携えし者よ、舞い降りよ!」


 


次の瞬間、床に禍々しい魔法陣が展開される。

空間が歪み、そこから一人の少女が、ゆっくりと現れた――

魔法陣が現れ、その者は現れた。


手には大きな鎌。

肩まで伸びた青い髪が片目を隠し、深い青い瞳が車内を見渡す。

黒と白の制服をまとった、ヤンデレ系の美少女――死神ちゃん。


その少女は、ゆっくり、ゆっくりと喋る。


 


「……ふぇ……? なに……ここ……?」

「……変な匂い〜……人間と、魔と……あっ……」


 


その視線がアーシアに止まる。


「……リュミナ、さまぁ……?」


 


ふらふらと歩み寄り、アーシアの頬にそっと触れる。


「やわらかぁ〜い……♡ あったかぁ〜い……♡ 間違いない……リュミナ様……♡」


 


アーシアは困惑しながら問いかける。


「傷だらけです。……大丈夫ですか?」


 


死神ちゃんはアーシアの顔をじっと見つめ、笑った。


 


「ハハッ〜……リュミナさ〜まぁ〜……相変わらず、やさスィ〜〜……♡」


「ちょ〜と〜、親……冥界王ハデスと口論しちゃってェ〜……

もうちょ〜とでぇ〜勝てそうだったところぉ〜……呼ばれたからさぁ〜……」


「ちょーとぉ〜……死神ちゃん、はらったってまーすぅ〜♡」


 


ペロッと舌を出す死神ちゃん。


 


その直後──

ふらふらのルイフェルが「おい」と口を開こうとするが、

死神ちゃんが鎌の柄を、**ガンッ!**と床に叩きつけて止めた。


 


「だれぇ〜……? 勝手に私を呼び出したのはぁ……?」


 


ゆっくりと振り返り、ルイフェルを見下ろすように見つめる。


 


「……あ〜……あなたかぁ……?

へぇぇ〜……ちっちゃくて、つよがってそうで……すぐ泣きそうな顔してる〜♡」


 


ルイフェルがムッとし、反論しかけるが――


 


「でもぉ〜……召喚は、成立してる……ふしぎ〜……」

「……まぁ、いっかぁ〜。リュミナ様、そばにいるし〜♡」


 


そのとき、アーシアたちの前方と天井から、“にじり寄る気配”が迫る。


 


死者たちだった。


 


死神ちゃんの瞳が、虚ろにゆれる。


 


「……んぅ〜……なにあれ、動く死体〜?」

「ダメだよ〜……死体はぁ……動かしちゃ〜……ダルぅ〜♡」


 


彼女はゆっくり鎌を構える。


「――止まって♡」


 


振り下ろされた瞬間、車両全体に金属が軋むようなキィイイーーンという音が走る。

一陣の風が死者たちをなで、魂と肉体が切り離されるように、次々と崩れ落ちていく。


 


「かえんなぁ〜……もとの場所ぇ〜……」


 


アーシアたちの車両にいた死者は、全員バタリと崩れた。


 


しかし、まだ終わりではない。

天井から──**ドン……ドン……**と、重い足音が響く。


 


「ダル〜……上にいるしぃ〜……」


 


さらに、前方車両からもぞろぞろと死者たちがにじり寄ってくる。


 


「前からも〜……別車両から〜……くーるー……ダルいしぃ〜……」


 


死神ちゃんは頭をかきながら、

「うーんとぉ〜……」と面倒くさそうに考える。


 


そのとき、ミャーリが震えながら座席の下にうずくまっていた。


 


死神ちゃんはその姿に気づき、にっこり笑う。


「そこのぉ〜猫耳の子〜……助けてあげるから〜……」

「お姉ちゃ〜んがやることぉ〜……見ててぇ〜♡」


 


そして、宙にふわりと跳び上がり――


 


「ズガァーアアア〜ーーーーン!!」


 


死神ちゃんの鎌が、車両の屋根を真横に一刀両断。

轟音とともに、裂けた天井がアーシアたちの前に崩れ落ち、防壁となる。


屋根にいた死者たちは吹き飛ばされ、

前方から迫っていた死者たちは、落ちた瓦礫の山によって進路を絶たれた。


 


死神ちゃんは、瓦礫の上にひょいっと軽く着地。


 


「さぁ〜……こいつら、動かしてるやつ〜……たいじしなぃとぉ〜……♡」


 


彼女の青い瞳が、静かに、妖しく光り始める。


 


――つづく。




【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854


アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。

ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!


▼アルファポリス版はこちら

https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191


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