悪魔王ベルゼバブ!
ヴァルゼインが唸り声とともに手をかざすと、空気が濁り、耳鳴りのような音がアーシアを襲う。
アーシア(苦悶の表情)
「頭が……っ、聞こえる……死者の、声が……!」
ノーム(震える目)
「終焉の囁き……! 精神に直接干渉する禁忌の魔術……!」
アーシアは膝をつき、額を押さえながら顔を歪める。
その瞳から光が失われかけたそのとき——
ベルゼバブ(声だけがアーシアの中に柔らかく響く)
「ちょっと! 可愛い子に何してんのよぉ……代わって♡」
アーシア(はっと目を開き、呼吸が整い始める)
「この声……?」
ベルゼバブ(優しく、甘く)
「ねぇ、アーシアちゃん。怖くないわよ。私が守ってあげるから、安心していいの」
死者のささやきが次第に消え、
代わりに——まるで魅惑的な愛の言葉のような、あたたかな“囁き”が心に満ちていく。
ノーム(小声で)
「なっ……あの“終焉の囁き”を、上書きして無効化した……!?」
ヴァルゼイン(動揺しながら後退)
「我が幻聴が……消えた……? 馬鹿な……っ!」
ベルゼバブ(妖艶な笑みを浮かべながら舞う)
「もう我慢できないのねぇ……なら、そろそろ……終わらせてあげる♡」
ベルゼバブは赤いドレスを翻し、黒バラの胸元から魔力を凝縮した腐蝕の槍を生み出す。
ルイフェル(目を見開き)
「よし! それでトドメだろ!」
しかし——
ノーム(緊急の念話)
「いけません! ベルゼバブ様の魔力が……! この世界ではもう限界です!」
ベルゼバブ(不満そうにぷくっと頬を膨らませて)
「え~? もう時間? まだ遊び足りないのにぃ~……」
それでも口元に妖しい笑みを残し、腐蝕の槍をゆっくりと構える。
ベルゼバブ(真剣な瞳で)
「……でも、最後くらいは決めないとね」
ドンッ!!
空気がねじれるほどの黒紫の爆風がヴァルゼインを直撃する。
ヴァルゼイン(絶叫)
「ぐああああああっ……!!」
魔腕はさらに崩れ落ち、翼も片方が消し飛び、重傷を負う。
ベルゼバブはその姿で最後にウインクして、
赤いドレスが光に包まれるようにふわりと消えていった。
アーシア(小声で)
「……ベルゼバブ様、ありがとうございました」
──静寂。
ルイフェルはすぐに立ち上がり、再び戦闘態勢を取る。
ルイフェル(ギラリと目を光らせ)
「さあ、残りは我が片付けるだけだ……!」
だが、ヴァルゼインは大きく後退しながら、魔法陣を展開し始めていた。
ノーム(低く唸る)
「あれは……転移魔法!」
ヴァルゼイン(口元から血を流しながらも笑う)
「覚えていろよ、地球の悪魔ども……次に会う時は——貴様らの魂ごと、呪い尽くしてやる……!」
そのまま、禍々しい風とともに魔法陣が炸裂し、
ヴァルゼインの姿は闇に溶けるようにして消えていった。
──戦闘終了。
爆風の余韻が消え、あたりが静けさを取り戻す。
エルフィナ(ぽかんとしながら)
「……い、今のって……な、なんなの……?」
ミャーリ(震えた声で)
「すごかったミャ……。あの赤いドレスのお姉さん、アーシア様を……!」
ノーム(杖で小さくうなずき)
「うむ、あれこそがルイフェル姫様の配下……地球の悪魔王、“ベルゼバブ”でございますな」
そのとき、アーシアの前に、赤い光がふわりと再出現する。
ベルゼバブ(残留魔力としての投影で)
「ふふっ、み~んな無事ね。よかった~♪」
ミャーリ(びくっとして)
「ひぃっ、で、でたぁ!?」
ベルゼバブ(ウインクしながらミャーリとエルフィナを指差し)
「あなたたちも、十分かわいいわよ♡ ちゃんと私がまもっちゃうんだから~♪」
エルフィナ(頬を赤らめて、後ずさりしつつ)
「か、可愛いって言われても……べ、別に嬉しくなんて……!」
ミャーリ(耳をぴょこぴょこ動かしながら)
「ま、守られるのは……ありがたいミャ。でも、ちょっとだけ怖いミャ……!」
ベルゼバブ(くすくすと笑って)
「もう~、警戒しちゃって♡ そんなに震えてたら……ぎゅってしたくなっちゃうじゃな~い♡」
ミャーリ・エルフィナ「「ひぃぃぃぃっ!?」」
ノーム(ぽつり)
「……ああ見えて、あれでも“味方”なのでありますぞ……」
ルイフェル(頬をかきながら、むすっと)
「べ、別に助けられたからって……アイツが全部いいわけじゃねぇし……」
アーシア(ふっと微笑みながら)
「でも……助けてくれました。感謝しています、ベルゼバブ様」
ベルゼバブ(妖艶に微笑み、消えゆく残光の中で)
「ふふっ……アーシアちゃんみたいな可愛い子を放っておけるわけ、ないでしょ? また呼んでねぇ~♡」
キラキラと光を残して、完全に消え去るベルゼバブの残滓。
その場には、戦いの名残と……ほんの少しだけ、甘くて不思議な香りが残ったのだった。
つづく
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