捜査開始
石畳の路地裏──。
建物と建物の間にひっそりと佇むのは、着飾った三人の少女たち。
真紅のドレスに身を包み、ドレス用の帽子までかぶったルイフェルが、ズルッ!
「ぎゃっ!!」
──ずでんっ!!
「えっ……!? す、すいませんっ……!」
白いレースが豪華なドレス姿のアーシアが、ルイフェルの裾を踏んでしまっていた。
「わざとだろぉ!!」
「えっ!? ち、ちがいますよぉ〜っ!」
アーシアが慌てて否定するが──
「このぉっ!」
ルイフェルがアーシアのドレスの裾を思いっきり踏み返す。
「きゃあっ!!」
アーシアが今度はずるりと転ぶ。
そんな中、若草色の可愛らしいドレスを着たミャーリが、どこか得意げにポーズを決めていた。
「二人とも、真面目にやるにゃ〜! 私を見にゃ〜! これぞ優雅なお嬢様にゃ〜!」
「……なんかさぁ、それ、七五三みたいだなぁ〜」
ルイフェルがニヤッと笑って言う。
「な、なんにゃ七五三って!? バカにしてるにゃ!?」
「てかミャーリ、語尾に『にゃ』がついてるぞぉ? 設定忘れてんぞ〜?」
「……我らはどこぞの名家のお嬢様三姉妹なんだからよぉ〜」
ルイフェルが得意げに胸を張る。
アーシアは額に手を当てながら、小声で指摘した。
「ルイフェルさん……私たちは“王室官僚ファール様の娘、三姉妹”という設定ですよぉ。ちゃんと覚えてください……」
アーシアはふとミャーリを見て、心配そうな顔をする。
「ミャーリも、危ないのに……着いてきちゃって……」
ミャーリは、少し恥ずかしそうに目をそらしながら言った。
「ゴメンにゃ〜……でも、みんなの役に立ちたくてぇ……!」
その言葉に、ルイフェルの表情が少し緩む。
「わーったよぉ〜。……って、いつまで地べたに座ってんだ? アーシア……いや、“アーシアお姉様”? ほっほっほ〜♪」
「こかしたのはルイフェルさんでしょー!? 起きれないんですよぉ……普段こんなの着てませんし……」
「はいはい、わかったわかった〜」
ルイフェルは手を差し伸べた。
──そのとき。
風がそっと舞うように吹き抜け、微かに光る精霊が現れる。
風精霊だ。遠く離れた場所から、テイトの声を届けてきた。
『おいおい君たち、しっかりしてくれよ。囮捜査なんだからぁ〜』
「は、はいっ! すいませんっ……!」
アーシアが慌てて返答すると、精霊は再び音もなく風に溶けた。
『……みんな。奴らだ。来たよ』
次の瞬間、テイトからの緊張感ある声が届く。
三人の表情が一瞬で切り替わった。
「よしっ……みんな、行きましょう!」
アーシアがきりっと声を張る。
ルイフェルがそれを聞いて、ニヤリとする。
「おまえさぁ、真面目すぎなんだよなぁ。しゃべり方が固すぎ〜」
「えっ……」
少し考え込んだアーシアは──照れながら一歩前に出た。
「……行きますわヨォ〜」
小さく吹き出したルイフェルの肩が揺れる。
「ぷっ……やっば、それ似合うな……」
ミャーリは少し遅れて、ぴょこんと帽子を直した。
「お嬢様三姉妹、出撃にゃっ!」
──つづく。
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