夫婦漫才
「まぁ話ぐらいなら聞くよ。やるかはそれからだぁ」
ルイフェルが眉間にシワを寄せて、渋々といった様子で応じる。
目の前で真剣な表情を浮かべるのは、エルフの戦士テイトだった。
「今、町トライヤでは人さらいが横行している。アジトまでは突き止めたんだが……元締めの正体が掴めなくてな」
テイトの語る言葉に、空気が一瞬引き締まる。
*
時が流れ、ルイフェルとアーシアは顔を見合わせる。
──ミャーリが誘拐された事件。
その記憶がよぎった二人は、同時に憤りを露わにした。
「受ける!! その依頼!!」
ピッタリとハモった声が部屋に響く。
「え……えっと、はい。ありがとうございます……?」
テイトは呆気にとられながらも、二人の息ぴったりぶりににやけてしまう。
「ほんとに仲がいいな、お前たち」
「たまたまだぁ!」
「たまたまですから!」
またしてもハモる二人。
次の瞬間、顔を見合わせたルイフェルとアーシアは、じわじわと頬を赤らめた。
そんな様子を見ていたテイトは、お茶をすするふりをして笑いをこらえる。
ミャーリはと言えば、不機嫌そうに口をとがらせていた。
(なんか面白くないにゃ……)
そのとき、ノームがミャーリの頭の中へテレパシーを送る。
「……姫様もアーシア様も、おぬしが誘拐されたことを、本気で怒っておるのじゃ」
「……うん」
ミャーリは目を細めて、小さくうなずいた。
*
「それより、どうして我らに?」
ルイフェルの問いに、テイトは即答した。
「そりゃあもう、ルイフェル殿はSクラスの冒険者だし! アーシア様は特級聖女ですし!」
アーシア「えぇーっ!? ルイフェル様、Sクラスになったんですか? すごいですっ!」
(ぱちぱちと拍手)
ルイフェル「もっと褒めるがいいぞぉ〜」
アーシア「Sクラスなのに、私に歯磨きやお風呂、掃除、お手入れまでさせるんですよねぇ……しかも毎日!」
(じと目)
ルイフェル「おいおい……テイトがいるのに言うなよぉ〜、小さい声で……はずかしぃ……」
アーシア「はぁい〜なんですかぁ?(耳を寄せる)」
ミャーリ「日頃のうらみにゃ〜」
ノーム(沈黙)
ルイフェル「だ、か、ら……小さい声で、はずかしぃ……」
アーシア「聞こえないですぅ〜はっきり言ってください♪」
ルイフェル「おまえ、わざとだろぉ!!!」
アーシア「そんなことしません。私は聖女ですから!嘘はつきません。」
テイトは完全に会話から取り残され、お茶をすする。
「はずかしぃって言ってんだろ!」ルイフェルが怒り出す!
「聞こえないですぅ~もっとはっきり!」いたずらな眼差しでアーシアが言う!
「おまえ!だからぁわざとだろぉ!」ルイフェル
「私は聖女ですから!嘘つきませんって!」アーシア
「目立ちたがりが!」ルイフェルが反撃する
「誰がですかぁ!」アーシアも怒り出す。
腕を組んで仁王立ちになるアーシアに、ルイフェルが食ってかかる。
「これだよぉ!」
突然、ルイフェルがミャーリの部屋の扉を開け放つ。
「みゃっ!? だ、ダメにゃ~~~!!」
そこには、部屋一面にびっしりと並ぶアーシアグッズ。
「ど、どうしたの……?」
テイトがのぞき込もうとした瞬間──
「テイトさん、神が見なくていいとおっしゃってます!」
アーシアが壁となり、テイトの視界を遮る。
「ブハハハハッ!目立ちたがりじゃんかぁ!!」
ルイフェルが下品に笑い出すと、アーシアが鬼のような目つきで睨む。
「ミャーリさ~ん……これ、どぉしたんですかぁ?」
アーシアの手が、ミャーリの頭をわしゃわしゃと撫でながらも威圧する。
ミャーリ(ビビりながら)
「ひぃっ……! じ、じつは買い物帰りに大神官様がくれて……つい……!
それで大神官様が、ミャーリもグッズつくらないかぁーって……
アーシア様みたいになりたいよねぇって……」
正直に言うミャーリ。ぐるぐる目を回しながら、
アーシア「大神官のばっ……ゴホン! いえ、バカとは言いませんよ。私は聖女ですから……」
アーシアが自分に言い聞かせるように呟く。
「すげぇなぁ、神に仕える者は……」
「一緒にしないでください!」
ぷくっと頬を膨らませるアーシア。
そして──
「はいはい、もういいかい? 夫婦漫才は」
ついにテイトがツッコミを入れた。
「誰が夫婦だぁー!」
「ですよぉー!」
またもや息ぴったりにハモる二人に、テイトは盛大にため息をついた。
──つづく。
【外部サイトにも掲載中!】
イラストはこちら(Pixiv)
https://www.pixiv.net/artworks/132898854
アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。
ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!
▼アルファポリス版はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191




