ドッと疲れた。
――宿屋、トライヤの朝。
あれから三日が過ぎた。
アーシアは宿のベッドに突っ伏して、ぐったりとため息をついた。
「はぁ〜……。なにも、まだ……できてません……」
右手でペンを持つ素振りをすると、ピキッと鈍い痛みが走った。
「右手が……右腕が……痛いです……」
神殿で調査するはずだった力の謎は、まったく進展がない。理由は明白。大神官様の引き止めが強すぎたのだ。
「アーシア様、あの扉の修繕にご協力を……」
「恵まれない子どもたちに、聖女様のお名前でパンを配りたいのです……」
最初は困っているなら……と頷いてしまったが、いつのまにか毎日サインを書かされ、寄付イベントに駆り出され、気づけば神殿の“看板娘”扱い。調査どころか、スケジュール帳はパンパンに埋まっていた。
宿に戻ったアーシアにルイフェルが尋ねた。
「で、進展は?」
「……」アーシアは顔を引きつらせながら、無言でVサインを作って見せた。
「な、なに!? こわっ!?」
ルイフェルが一歩引いた。
⸻
時間が経って――町のカフェ。
ルイフェルとミャーリ、ウルワはテラス席でひと休みしていた。
「はぁ〜……」
ルイフェルはうつろな表情でスプーンをくるくる回していた。目の前ではミャーリが口を尖らせて説教中。
「だからにゃー! 魔物を倒すのはいいけど、証拠の一部が必要にゃ! チリにしてどうするにゃ!」
(まぁ……あれ宝石ごと吹っ飛ばしたら、そりゃ怒るかぁ……)
ルイフェルが心の中でつぶやく。
つい先日のこと。魔物討伐の依頼で、ルイフェルは魔物を“気合の一撃”で木っ端みじんにしてしまい、受付に出す証拠が何も残らなかった。
「頭使えるのかにゃー、悪魔ならもっと賢くするにゃー」
――ガミガミ、ガミガミ。
ミャーリの説教は止まらない。ウルワだけがお茶を飲みながら穏やかに尻尾を揺らしていた。
だが、ノームの転移術のおかげで移動の手間はゼロ。討伐件数は爆速でこなしており、結果――
「3日でランクAか。すげぇな……Fからの出世」
最大の功績は、町近くに現れたドラゴンの討伐だった。
「……そういや、ミャーリ、ドラゴン倒したとき笑い転げてたよな」
「そりゃそうにゃ〜! だって、ビンタ一発にゃ!! あれはもう笑うしかないにゃ〜!!」
「だってあいつ、顔近づけてくるから……顔近づけていいのは、アーシアだけだろ……」
ルイフェルが小さく呟いた。
「ん? 何か言ったにゃ?」
「……いや、なんでもない」
「まぁ今日もがんばるにゃー! ルイフェルは大雑把すぎるから、私が舵取らないとダメにゃ!」
ルイフェルの目が点になる。
(あーまたガミガミか……無心、無心……)
彼女は無心モードに切り替えて、紅茶をすするのだった。
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