アーシア神聖力
トライヤの宿屋。
アーシアはひとり悩んでいた。
(やっぱりあの時、川で溺れた子を救った“あの力”……私の神聖力、何かが変わってる……。このままじゃだめ、ちゃんと調べないと)
そんな決意を胸に、アーシアは静かに祈りを捧げていた。
「おーい! 起きたぞー!」
部屋にルイフェルの声が響く。
ルイフェルがアーシアの部屋を勝手に開け、当然のように身の回りの世話を要求してくる。
それを廊下から見ていたミャーリは、ぷくっと頬を膨らませた。
「まーたぁ、あのダメ悪魔! アーシア様をこき使ってるにゃー!」
場面は浴場。
湯船に浸かるルイフェルの髪を洗うアーシア。
その静かな時間の中、アーシアは切り出した。
「ルイフェル様、私……トライヤの神殿に行こうと思っています」
「へ? 神殿? なにしに?」
「ここなら大きな神殿がありますし、あの時の神聖力が何なのか調べられるかもしれません」
ルイフェルは少しダルそうに、ぷいと横を向いた。
「そんなん調べてどうすんだよ……」
アーシアはむっとして、湯船からルイフェルの顔をむぎゅっと両手で掴み、自分の方に向けた。
「グギィィ、首がぁ……って、うわー顔近い!!」
「ルイフェル様! これは神が与えてくれた“レベルアップ”なのですよ! 旅にも必要な力です!重要ですっ!」
「わ、わかったってば! 近い近いってぇ〜!!」
顔を真っ赤にするルイフェル。
「で、ルイフェル様。ついでに……ウルワと一緒に魔物の討伐依頼、お願いしてもいいですか?」
「……なんで?」
「滞在費が足りません! 私の夜の内職だけでは無理です!」
アーシアが再び顔をぐっと近づけると、
「うわーったよ! 行くから! だから顔!近いってばぁー!!」
──
場面は冒険者案内所。
「ダル……やっぱ帰るか……」
ルイフェルが入口の前で引き返そうとする。
「ダメにゃ〜!」
後ろからミャーリとウルワが飛び出してきた。
「なんでチビがついてくんだよー」
「アーシア様から、監視役頼まれたにゃ〜! ウルワも一緒にゃ! ワフッ!」
(あーもう、帰れない……)
重い足取りでカウンターへ向かうルイフェル。
「ご登録ですか?」
受付の女性がにこやかに問いかける。
「ああ、そうだ」
「では、まずはスキルや戦闘スタイルを教えてください」
ルイフェルは少し面倒そうに、腕を組んで言った。
「悪魔だ」
受付嬢「………………えっ?」
周囲の冒険者たちが一斉に振り向いた。
「……は? 今“悪魔”って言わなかった?」
「おいおいマジかよ!?」
空気が一気にピリつく中、ミャーリが慌てて前に出てきて声を張る。
「ち、ちがうにゃー! こいつは武闘家にゃ!! ちょっとばかにゃんよぉ!」
「おいっ!? なんで勝手に!?」
「言い方が悪いにゃ! スキル“悪魔”じゃなくて、種族が悪魔にゃ!」
「どっちでもややこしいわ!!」
ざわつく案内所の中で、受付の女性は苦笑しながら一言。
「……えっと、武闘家ってことで登録しておきますね?」
「そっちで頼む……」
ルイフェルがぼそりとつぶやいた。
──
一方その頃、アーシアは神殿にたどり着いていた。
「ここが……」
しかし、待ち構えていたのは――
「おぉ〜アーシア様お待ちしておりました〜サインはこちらで〜!」
「え? サイン……?」
すぐに列ができ、神殿前はたちまちアーシアグッズの即売会状態に。
「はいはい〜アーシア様の聖水はこちら〜! キーホルダーもあるよ〜!」
アーシアは神聖力を調べるどころか、逃げ場もなくサインに追われる羽目に。
「これって大神官様ぁ〜!?」
「大丈夫です。これも神殿の発展のため。では、よろしくお願いしますね〜」
アーシア、絶望。
──つづく──




