陽だまりの庭
王都ルイザの陽光が、庭園いっぱいに広がっていた。
お城のすぐ裏手――手入れの行き届いた芝生の奥に、一際立派な屋敷が建っている。
白い壁と赤い屋根。
その屋敷こそ、今ではアーシアの故郷である“施設”のシスターと子どもたちが暮らす新しい家だった。
アーシアは門をくぐりながら、思わず笑顔を浮かべた。
「わぁ……立派な屋敷。よかった……!」
その隣で、エルフィナも柔らかく微笑んだ。
「よかったですわね、アーシア様。」
アーシアは小走りで玄関まで進むと、ドアを軽くノックした。
コン、コン――。
するとすぐに、中から小さな女の子が顔をのぞかせた。
「あっ! アーシアお姉ちゃん!!」
ノエだった。
弾かれたようにドアを開けると、勢いよくアーシアに抱きつく。
アーシアは驚きながらも、ぎゅっと抱き返した。
「ノエ……! 元気だったのね!」
その声を聞きつけ、屋敷の奥から次々と子どもたちが顔を出す。
「アーシアお姉ちゃーん!」
「ほんとだ! 帰ってきたー!」
次の瞬間、アーシアは子どもたちに取り囲まれた。
小さな手、小さな笑顔。
彼女のスカートの裾を掴む子もいれば、背中に抱きつく子もいる。
そのひとりひとりの温もりが、まるで夢のように懐かしかった。
後ろでは、エルフィナが穏やかに笑いながら言った。
「ティナ=カクさん、メイ=スケさん。持ってきたものをお願いしますわ。」
二人の護衛騎士が頷き、大きな箱を抱えて子どもたちの前に並べた。
中には、ケーキや焼き菓子、そして色とりどりのおもちゃがぎっしりと詰まっていた。
「わぁ〜!」「お菓子いっぱい!」「かわいい!」
子どもたちは歓声を上げて跳ね回る。
その様子に、エルフィナはそっと胸に手を当てた。
(……この笑顔を守るためにも、私たちは戦ってきたのですわね)
やがて、奥の扉が開き――
シスターが姿を見せた。穏やかな笑顔を浮かべ、手を広げて言う。
「まぁまぁ……アーシア。おかえりなさい。
エルフィナ様も、ありがとうございます。子どもたちにお土産までくださって。」
その声を聞いた瞬間、アーシアの瞳に涙が浮かんだ。
「シスター……!」
次の瞬間、アーシアは走り寄り、思わず抱きついていた。
「まぁまぁ、アーシアたら……もうお姉さんなのに、甘えたさんですわねぇ。」
シスターは優しく笑い、彼女の頭を撫でる。
「だって……船で気づいたら、いなくなってて……。会いたくて、ずっと……ぐすっ……」
アーシアは涙声で言葉を詰まらせた。
シスターはその背をさすりながら、静かに微笑んだ。
「ごめんなさいね、アーシア。
あなたの無事を確かめたあと、王宮の方がここを紹介してくださったの。
子どもたちもたくさんいますし、船だとほかの方に迷惑でしょう?
だから少し先に、みんなでこちらへ来たのよ。」
「うん……そうよね。子どもたちもいるもんね……」
アーシアは涙を拭き、ほっとしたように笑った。
すると、ノエがアーシアのスカートの裾を引っ張った。
「ねぇねぇ、お話もういい? お姉ちゃん、遊ぼー!」
アーシアは笑顔を取り戻し、しゃがみこんでノエの頭を撫でた。
「うん。もう終わったよ〜。遊ぼっか♪」
「やったぁ!」「わたしもー!」「ボールやろー!」
子どもたちが一斉に外へ駆け出す。
「エルフィナ様も来てー!」
元気な声が響く。
エルフィナはくすっと笑って頷いた。
「ふふっ……行きますわよ〜。」
そしてアーシアと一緒に、庭へと駆け出していく。
緑の芝生の上では、子どもたちの笑い声が弾けていた。
明るい陽射しが花々を照らし、風が楽しげに揺れている。
アーシアは子どもたちと一緒にボールを追いかけ、
エルフィナも裾をたくし上げて笑いながら参加していた。
「いきますわよ〜!」
エルフィナが軽く助走をつけて――思い切りボールを投げた。
ボールはものすごい勢いで空を切り裂き、
「ヒュンッ!」と風を鳴らして遠くの花壇へ突き刺さった。
「……」
一瞬、場が静まり返る。
メイ=スケが顔をひきつらせながら叫んだ。
「エルフィナ様〜っ! ボール投げるときにゴリラパワー使わないでくださいっ!
子どもが怪我しますってぇ〜!」
ティナ=カクが即座に制止する。
「おい、スケ! それ以上言うな!」
しかし、エルフィナはすでにムッと頬をふくらませていた。
「まぁっ! わたくしはお淑やかですのよー!
そんな力、あるわけありませんわっ!!」
子どもたちは顔を見合わせて、くすくすと笑い出す。
「えーっ! 第五王女エルフィナ様はゴリラみたいに強いって〜!」
「うん! ルイザでも有名だよ〜!」
「なっ、なんですってぇっ!?!?」
エルフィナの顔が真っ赤になる。
「まぁ〜! なんでそんなデマが広まってるんですの!? これは問題ですわ〜っ!!」
メイ=スケはボソッとつぶやいた。
「……デマじゃないですけどねぇ……」
「スケ!」
ティナ=カクが肘で小突く。
「やめておけ……それ以上は命の保証がないぞ。」
「ひぃ〜っ……了解ですぅ……」
そのやり取りを見て、子どもたちは大笑いし、
エルフィナもついに吹き出して笑った。
「もぉ〜っ……皆さん、ひどいですわ〜!」
彼女の頬には芝生の泥がつき、王女らしからぬ姿になっている。
そんな微笑ましい光景を見つめながら、
シスターは屋敷の玄関口で、そっと手を合わせるように微笑んだ。
「まぁまぁ……アーシアもエルフィナ様も、もうどろんこになっちゃって……。」
その声に、子どもたちは「えへへ〜」と笑い、
アーシアも「すみませ〜ん」と返す。
穏やかな陽だまりの庭で、
笑い声と風の音が、まるで一つの歌のように響いていた。
つづく
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イラストはこちら(Pixiv)
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