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赤い月と死神の鎌

王宮の大舞踏室。

砕けた柱と、燃え残る燭台の光が、死神ちゃんとバルムートを照らしていた。


血の匂いが、わずかに鉄の味を含んで漂う。

その中で、死神ちゃんの額から流れた血が頬をつたって――

ポタ、ポタ、と赤い絨毯に落ちた。


バルムートが不敵に笑う。

「クククッ……」


静寂が訪れる。

さつばつとした大舞踏室に、時間がゆっくりと戻るように動き出す。


死神ちゃんは息を整えながら、ゆっくりと顔を上げた。

片膝をついたままでバルムートを見据える。


バルムートは、黒い血を吐きながら低く笑う。

「よくぞ、ここまで我を追い詰めた……。

 だが……どうやって我の体に“傷”を……?」


死神ちゃんは、乱れた息の合間にかすれた声を漏らす。

「はぁ……はぁ……スピードを〜上げて〜……

 何度も、同じ箇所を〜……斬りつけただけ〜……」


その言葉に、バルムートの赤い瞳が一瞬だけ揺れた。

手で胸の傷口を押さえる。

「……ふむ。残像が……少し見えたが……そういうことか。

 褒めてやろう……」


バルムートの肩から腹部にかけて、斜めに深い裂傷が走っていた。



大舞踏室の端、燭台の影のさらに奥から、軽やかな声がかかった。

「あーら! バルムート、やられちゃってるじゃなーい?」


バルムートは荒い息を吐き、振り向く。暗がりに浮かぶのは、砂塵のように煌めく黒髪と赤い瞳。裸足の足首には赤いリボンが揺れ、鈴がチリンと軽やかに鳴った。ゼレギアグレスが、ふわりと笑っている。


「ゼレギアグレスか……。おまえは、毒を浴びているようだな?」

バルムートの声は嗤の残る低音だった。血の匂いと鉄の味が室内に充満する。


ゼレギアグレスは舌を軽く出し、あどけない調子で答える。

「ふふっ、ベルゼバブにやられちゃった♡ まぁ、少しだけどね〜。浴びたのは〜上の二人を始末しに来たのよ。モリアート様のめいで」


その声に、死神ちゃんの瞳が鋭く光る。額の血は頬を伝い、赤いしずくが絨毯に落ちる。だがその面差し気弱なものではない。鎌の柄を握る指先に力が入り、全身から気迫が迸る。


その“上の二人”という言葉が、大舞踏室の空気をさらに重くした。――ルイフェルとアーシア。


死神ちゃんはゆったりと動いたかと思うと、突然スピードを上げた。

「させない!」


ダッ! ダーダダダダーダー!!

走り込み、鎌を振るう。ブアーンンンーー!!!と鎌が唸る。


ゼレギアグレス

「うわー!」


砂が舞い上がり、ギリギリで身を翻したゼレギアグレスを砂の壁が庇う。しかし死神ちゃんは追いつき、なおも斬りかかる。


その鎌を、バルムートが右手で弾いた。

「待て! 二人とも!! 決着がついてない! まず、死神よ! 我と戦え! ゼレギアグレスも横槍はやめろ!」


ゼレギアグレスは口を尖らせる。

「横槍って〜、やりにきたのあの子だよ〜。もーお! じゃあ〜私は上行くから」


死神ちゃんがぴたりと止まり、挑発の笑みを浮かべる。

「へぇ〜、逃げるんだ〜」


ゼレギアグレスは一瞬立ち止まり、むっとした。


死神ちゃんは首をかしげて、わざとらしく間を取り、からかうように言い返した。

「弱〜いから〜??」


ゼレギアグレスのこめかみに血管が浮き、顔を赤らめてふくれっ面になる。

「なっ……! 誰がよ〜!!」


バルムートが慌てて怒鳴る。

「おい! 挑発に乗るなー!」


ゼレギアグレスは振り返りざまに砂を巻き上げ、睨み返してから言った。

「のってないわよ〜。まぁ〜、あの子片付けてからでもいいし〜」


バルムートはため息をつくように言葉を漏らす。

「ぐぬぬ……ふむ、仕方ない。すぐ片付けよう」


その声と同時に、ゼレギアグレスの足元から砂が一気に舞い散った。

死神ちゃんの視界を奪いながら、彼女は指先を払うようにして無数の針を空間ごと放つ。


ヒュンヒュンヒュンヒュン――!!


だが、死神ちゃんはそれを見切っていた。

鎌を軽く振るだけで、すべての針を弾き飛ばす。

ギン!ガン!ガキィン!

金属が打ち合うような音が連なり、火花が大広間の空中に散った。


その瞬間を狙い、バルムートが突進する。

巨体が床を砕き、影が覆いかぶさる。


ドドドドドーー!!

バルムートの巨大な足音が迫る


だが死神ちゃんは、野球選手のスライディングのように身をひねり、

バルムートの足の下をすり抜けた。

髪が風を切り、直後、背後で床が爆ぜるように鳴った。

ズカン。


「ギンギンガンガンッ!」

飛来する針を鎌で落としながら、死神ちゃんはすぐに体勢を立て直す。

そのままゼレギアグレスの間合いに滑り込み――

「粉砕!!」


ブーーンー!!


鎌の一閃が走る。


「えっ、あっ! ちょっと!!」

ゼレギアグレスは慌てて後退。

舞い上がる砂が壁のように彼女を包み、間一髪で致命傷を避けた――が、

次の瞬間、金属音が響き鎌をゼレギアグレスにもう一度振りおろす


ズガァーー!! ギーーーン!!


死神ちゃんの鎌が弾かれた。

バルムートが巨腕を差し込み、ゼレギアグレスの前に立ちはだかっていたのだ。


「おい! 足手まといだぞ。ゼレギアグレス、いつもの動きがないな。」


ゼレギアグレスは口元を歪め、虚勢を張って笑う。

「毒で少しね〜。でも見せてあげるさぁ――千針舞踏!!」


彼女は軽く足を踏み鳴らすと足首の鈴木がなり、砂が舞い、舞踏のように体を回し始めた。

それに呼応するように、針の嵐が再び生まれ、光を反射して空中を舞う。


二匹の悪魔を前に、死神ちゃんは息を整え、鎌を構え直した。

冷たい月光が窓から差し込み、彼女の影が静かに揺れる。

次の一手――それが、この戦いの趨勢を決める。



つづく

【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854

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