炎に微笑む者
砂煙がゆっくりと消えていく。
その静寂の中、――どこか懐かしい声が響いた。
「いゃ〜、なんやぁ〜このごっついおっさんはぁ〜?」
重い音とともに、巨大な影がバルムートの前に立ちふさがる。
片手で覇獣バルムートの腕を押さえ込み、もう片手には――
金色の光を反射する巨大なハンマー。
黒髪に赤い花飾り。
上半身は艶やかな花柄の着物。
下は動きやすいスカート。
凛として、美しく、しかしその瞳には確かな怒りが宿っていた。
アーシアは息を呑んだ。
胸の奥が熱くなり、視界が滲む。
「……あめのちゃんさん……!」
震える声でその名を呼ぶ。
涙が頬を伝い落ちる。
彼女――あめのちゃんは、ちらりと振り返り、にこりと笑った。
「アーシアちゃん、よう頑張ったなぁ。もう大丈夫やでぇ〜」
その声を聞いた瞬間、アーシアの体から力が抜ける。
召喚の反動で魔力が尽きかけていたのだ。
意識が遠のきかけたその時――
ふわりと、あたたかな手が彼女の肩に触れた。
どこか冷たい、けれど優しい感触。
「……わたぁ〜しぃ〜もぉ〜……いてるよぉ〜……」
その声に、アーシアの瞳がもう一度開く。
「……死神ちゃんさん……!」
振り向くとそこには、青い髪を肩まで流した少女が立っていた。
セーラー服風のワンピース。
右目を隠す髪の奥から、淡く光る左の瞳。
ほっぺたの絆創膏が、彼女らしい無防備さを残している。
死神ちゃんはゆっくりと手を振り、
「アーシアちゃぁん……無事でよかったぁ〜♡」
と、いつもの脱力した調子で微笑んだ。
その後ろで、バルムートが吠える。
「貴様らぁッ! 何者だぁ!!」
あめのちゃんのハンマーが、地を打った。
――ゴォォォンッ!!
雷鳴のような音が玉座の間全体に響き渡り、
重厚な衝撃波が床を割り、壁を震わせる。
次の瞬間、あめのちゃんはバルムートの腕を片手で掴み――
「ふんぬっ!!」
そのまま、巨体を持ち上げて投げつけた!
――ドガシャーーーンッ!!
轟音とともに、バルムートの身体が大理石の柱を砕き、壁にめり込む。
砂と瓦礫が飛び散り、玉座の間に再び砂煙が立ち込めた。
「な、なにぃ〜!?」
バルムートは目を見開き、驚愕の声を上げる。
あめのちゃんはハンマーを肩に担ぎ、
片目を細めながらにやりと笑った。
「おっさん……! いろいろやってくれたみたいやん!!
――覚悟してもらうでぇ!!」
その背後で、ゆらりと青髪が揺れる。
死神ちゃんがセーラー服の裾をふわりと揺らしながら、
にっこりと笑って後に続いた。
「でぇ〜♡」
砂煙の中に、二つの光が見えた。
ひとつは温かく、もうひとつは優しく。
アーシアの胸の奥で、何かが弾ける。
瀕死のルイフェルを見て
「……今度こそ、守ってみせる」
アーシアは静かに息を吸い、涙を拭って立ち上がった。
まっすぐ前を見据えた。
そして、新たな戦いの幕が、静かに上がる。
⸻
つづく
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