黒炎の咆哮
玉座の間で砂煙が立ち込めた。
咄嗟にアーシアを庇ったルイフェルが、バルムートの突進をまともに受け――壁に叩きつけられる。
めり込んだ壁が粉砕し、ルイフェルの額からは血がとめどなく流れ落ちた。
アーシアは驚愕し、駆け寄る。
「ル、ルイフェルさ……ま……!」
ルイフェルは荒い息を吐きながらも、かすれ声で返した。
「だ、大丈夫かぁ……? はぁ、はぁ……アーシア……」
「は……い……」
そのやり取りを見下ろしながら、バルムートは豪快に笑った。
「ほぉーお! まともに受けてその程度かぁ〜! ゼレギアグレス、感謝するぞぉ〜! ブハハハ!!」
巨体が蹄を打ち鳴らし、地響きが走る。
下半身の筋肉をうならせ、再び突進の構えを取った。
その気迫はまるで城ごと踏み潰す獣。
――だが。
「二人とも逃げるぞ! 退避だッ!!」
ひめなが、槍の姿のまま魔力を解放した。
紫の光が床を走り、転移魔法の紋が広がっていく。
しかし、その瞬間――。
「――魔力遮断!!」
バルムートがにやりと笑い、片手をかざした。
黒い稲妻のような波動が走り、魔法陣が一瞬で霧散する。
「なっ!?」
「ふははははッ!!」
バルムートの笑いが響く。
「魔法は得意ではないが……おまえごとき槍の魔力を封じることぐらい、造作もないわぁ!!」
バルムートは、
その身に黒炎を纏い、両腕を広げる。ポーズをとる。
空気が焼け焦げ、熱気が空間を歪ませた。
バルムートは吠えるように咆哮を上げた。
「我が覇炎――黒炎よ! この身を包めぇぇッ!!」
瞬間、轟音とともに漆黒の炎が立ち上がり、
その巨体を飲み込むように渦を巻いた。
炎はただの熱ではない。
圧そのものが空間を歪め、床の石を焼き、周囲の空気を黒く染めていく。
バルムートは口角を吊り上げ、
「これぞ我が闘装――“黒炎装”!」
炎が獣の輪郭を覆い、瞳が真紅に燃え上がる。
バルムートは地を蹴り、蹄の音を鳴り響かせた。
「二人まとめてやろう!! 感謝するんだなぁッ!!」
ひめなは二人の前でふわりと浮かび、全身から黒紫の魔力を放ちながら回転しはじめた。
ギュルルルルルルーーールルゥーーー!!
その回転が生む魔力の輪が、盾のように二人を包み込む。
「アーシア! ルイフェル! 逃げろ!! 私が盾になる!!
お前たちといて……楽しかった! さぁ――行けぇぇ!!」
「ダメだ……ダメだ、ひめ……な……ッ!」
ルイフェルは血まみれの手を伸ばし、ひめなに向ける。
だがその声をかき消すように、
――バルムートの足が地を砕いた。
粉塵と砂煙が視界を覆い尽くし、
二人の姿が霞んでいく。
そして――。
バルムートとひめながぶつかりかけた瞬間、
炎の柱が迸った。
轟音と光が玉座の間を呑み込む。
誰の叫びも、熱の奔流にかき消された。
⸻
つづく
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