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紅砂に沈む夜

「126・127話の順序を修正しました」

リリスはゼレギアグレスの存在を無視して、血の匂いの中、ゾイルに駆け寄った。

その胸に耳を押し当て、震える声で呟く。


「と、止まってる……!」


(でも……私の“魅了の魔力”で……一時的になら……動かせるかも……!)


リリスはゾイルの胸に両手を添え、歯を食いしばりながら魔力を注ぎ込む。

淡い光がほのかに灯り、彼女の瞳に涙が滲んだ。


「お願い……ゾイル……まだ、逝かないで……!」


次の瞬間――。


「いっ……痛っ!!」


激痛が足に走った。

見下ろせば、無数の細い針が左足にびっしりと刺さり、血が滲んでいた。


「な、なに……これ……っ!」


ゼレギアグレスの甘ったるい声が頭上から降る。

「ねぇ〜、あんたぁ〜な〜に無視してんのさぁ? こりゃ〜お仕置きだねぇ♡」


――ギャアアアアァァァァァッ!!!


リリスの絶叫が洞窟の奥まで響き渡った。



場面は変わり――。

ベルゼバブは悪魔軍の群れを切り裂くように飛び抜けていた。

町の至る所に黒い影がひしめき、空と地が血に染まる。


「なんか……とても嫌な予感がするよぉ! 急がないと!!」

焦燥の声が夕空に消え、彼女の赤いドレスの裾が風を裂く。


洞窟が見えてくるにつれ、胸の奥の不安はさらに濃くなっていく。

そして、到着したベルゼバブの目に飛び込んできたのは――。


血に染まった光景だった。


リリスは全身に無数の針を突き立てられ、倒れ伏していた。

その横でゾイルは生死の判別もつかぬほど血を流し、動かない。


「リリスっ……ゾイルっ!!」


駆け寄ったベルゼバブを見て、ゼレギアグレスはくすくすと笑う。

砂塵の中で、まるで舞踏でもしているように。


「あ〜来た来たぁ〜♡ ねぇねぇ、見てよ〜その子ぉ〜。何度針刺してもねぇ?

その死人から動かないの〜。だからさ〜、じわじわと足からぷすーぷすーって刺してやったのよぉ♡」


ベルゼバブの目が細く光る。


ゼレギアグレスは楽しそうに続けた。

「あんた上位悪魔でしょ〜? 一応ねぇ、名乗ってあげるよ。

私はゼレギアグレス、“紅砂の狂姫”ゼレギアグレスさぁ〜♡」


砂を舞わせ、妖艶に踊るその姿。


だがベルゼバブはそれを見据え、リリスのもとに片膝をついた。


指先から淡い緑の光――“癒しの毒”を滲ませ、そっと彼女の身体を包む。


「……リリス……少しだけ我慢してね」


そして、立ち上がりざま、ベルゼバブはゼレギアグレスに目を向け、静かに言い放った。


「うるさいよ――黙れよ!!!」


その瞬間、空気が爆ぜた。

凄まじい威圧が洞窟全体を押し潰すように広がり、ゼレギアグレスの足元の砂が波紋のように揺れた。


ゼレギアグレスは目を見開き、愉悦の笑みを浮かべる。

「へぇ〜……すごいねぇ〜♡ 久々にゾクゾクするわ〜。

じゃあ私もぉ……本気、出さなきゃねぇ♡」


「……好きにしな。」

ベルゼバブは赤いドレスの裾を揺らしながら、一歩、前へ踏み出す。


「早くやり合おう〜!!!」

ゼレギアグレスが両腕を広げ、砂嵐を巻き上げた。


だが――ベルゼバブはふっと笑う。

「わかったよ。でもね、私と“サシ”でやりたいなら……もう少し待ちな。」


「嫌だよー!」

子供のように駄々をこねるゼレギアグレス。


ベルゼバブは肩をすくめ、皮肉気に微笑んだ。

「器が小さいねぇ、あんた。少し待つぐらいの余裕もないのかい?

上位悪魔なんだろ? それとも、誰かに使われてる身かい?

……そんな焦り方してたら、主に泥を塗ることになるよ。」


ゼレギアグレスの瞳が一瞬だけ鋭く光る。

だがすぐに緩やかな笑みを戻し、ふてくされたように大木にもたれて座った。


「はいはい〜わかったよ〜。少しだけね〜。」


その隙に、リリスがか細い声で呟く。

「べ……ベルゼバブ様……」


ベルゼバブは振り返り、優しく微笑んだ。

「リリス……よく頑張ったね……」


彼女は指を組み、念話で呼びかける。

(ノームじい。リリスとゾイルを、そして町の人たちを……転移させておくれ。)


遠くから答えが返る。

『町の者も、かぁ……人数が多いのぅ。ちと骨が折れそうじゃが……』


ベルゼバブは静かに呟いた。

「頼むよ。あいつと戦ったら――このあたり、全部吹っ飛ぶかもしれない。」


『……そ、それほどのものと……了解した。急ぐ!』


ベルゼバブは目を閉じ、短く息を吐いた。

「頼んだよ、ノーム……」


――そして、再び赤い瞳を開いた時。

その視線は、ゼレギアグレスただ一人に向けられていた。


燃えるような殺気が、夕暮れの洞窟前を染め上げていく。


つづく。


【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854

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