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紅と黒の舞踏


――玉座の間。

崩れた大理石の床と、血の飛沫が舞う空間に、雷鳴のような衝撃音が響き渡っていた。


ルイフェルと覇獣バルムートは、すでに理を超えた殴り合いの最中にあった。

拳と拳がぶつかるたび、空気が悲鳴をあげ、衝撃波が天井を貫いていく。


バルムートの強腕から放たれる一撃一撃は、ただの暴力ではない。

それは空気ごと敵を粉砕する“質量の暴風”。

その拳を受けるたびに、ルイフェルの身体が大きく吹き飛び、壁を砕いては立ち上がり、また挑む。


――ズガァァン!!

――ドゴォォォン!!


大理石が崩れ、赤黒い亀裂が玉座を走った。

しかし、ルイフェルの瞳から光が消えることはない。


「ふっ……来たかぁ……」


壁に叩きつけられたまま、ルイフェルは血に滲んだ口元で不敵に笑った。

血を舌で拭い、立ち上がる。

その瞳の奥には、悪魔特有の獰猛な闘気が燃えていた。


その時――。


――ギィィィ……ッ。


玉座の間の扉が、息を切らす音と共に開かれた。

アーシアが駆け込んでくる。

銀の髪が汗で張り付き、肩で息をしながら叫んだ。


「ハァ……ハァ……ルイフェル様っ……! すいません……遅くなりました! ――ひめなさんを、お返しします!!」


アーシアの手には、魔槍デビルマスター――ひめなが光を纏い、槍の姿で握られていた。


ルイフェルは血を吐き捨てる。

その唇に浮かぶ笑みは、まさしく“戦う悪魔”のそれだった。


「……よく戻ったな。ここからが――本番だ!! バルムートォ!!」


バルムートの瞳が赤く輝き、獣の咆哮が玉座の間を震わせた。

「ほざけぇ! 小さき地球の悪魔よ!! 我が覇を以て貴様を粉砕してくれようッ!!」


二人の間に、再び火花が散る。

空気が、悲鳴のように裂けた。


――ズドォォォォン!!!!


砂煙が立ち込め、絨毯が焦げ臭くなった。


「バルムート〜、まーだ戦ってるのぉ〜♡」


赤と金色と黒のアラビアン服を身に纏い、少女とは思えないほどの妖艶な笑みを浮かべて、不満そうにバルムートに言い放つ。

装飾を施した黒い長い髪は、踊っているようにふわふわしている。

悪魔特有の赤い目が、ルイフェル達を睨みつけた。


「なぁにぃ〜? こんなやつらにてこづってんのぉ〜?」

クルクルと妖艶に踊りながら、バルムートに言う。


バルムートは苛立ちながら低く唸った。

「うるさいぞ! ゼレギアグレス!! 報告は? なんだ?」


ゼレギアグレスは余裕の笑みを浮かべ、指先で髪を弄びながら答える。

「全部! ぜーーんぶぅー! このルイザの首都を悪魔軍達で包囲したよ〜♡」


ゼレギアグレスは舌をだしながらアーシアを見て、にやりと笑った。

「あ、と、わぁ〜ごぉーれぃ!!! だぁけぇ〜くすくす……

あんたの〜お仲間さんや知り合いはぁ〜、みーんなー! あちらに行っちゃうね〜♡ キャハハ!」


アーシアは顔をしかめ、槍を構えた。

「そんなことはさせません!!」


ルイフェルは血を吐き捨て、怒号を上げた。

「ふざけてんのかぁ!!!」


――玉座の間には、崩れ落ちた柱と砕けた大理石の破片が散らばっていた。

バルムートが開けた壁の穴から吹き込む風が、赤い砂を巻き上げる。

その中央に、ゼレギアグレスは静かに立っていた。


彼女はゆっくりと目を閉じ、唇の下に細い指を添える。

まるで考え事をしているように見せかけながら、ほんのり笑みを浮かべる。


「そうねぇ、これは〜どっちかぁって言うとぉ〜……楽しいかなぁ〜」

指を唇に軽く当てたまま、猫のように目を細める。

「いやー、違うかなぁ〜……あんたの言う通り〜おふざけかなぁ〜♡」


その声音は甘く、しかし底に狂気が混じっていた。

次の瞬間、ゼレギアグレスは笑みを消し、真顔になる。

空気が一瞬で冷たく張り詰め、誰もが息を呑む。


「……進行」


ぽつりと呟いたその言葉は、まるで鐘の音のように響いた。


次の瞬間――。


大地を揺るがすほどの振動が城を貫いた。

壁が震え、瓦礫が舞い上がり、遠くから足音のような音が重なって聞こえる。


ズオーンズオーン……ズオーンズオーン……!!

その響きは、まるで地の底から軍勢が這い出してくるかのようだった。


ゼレギアグレスはゆっくりと目を開け、アーシアに向かって微笑んだ。

その笑みは、残酷で、美しく、死を告げる花のよう。


「あっ! 動かしちゃったぁ〜♡ みーんなー! みーんなぁー!

これでぇ、あなたの前からいなくなるねぇ〜聖女ちゃん!!」


彼女の声が響くたび、赤い砂が渦を巻き、外では兵の影が蠢く。

バルムートが動いた。

巨大な拳が壁を貫き、崩れた玉座の向こうに新たな穴を開ける。

瓦礫の粉塵の中、ゼレギアグレスはアーシアとルイフェルの方を振り向いた。


「名残りおしいけど〜……それじゃあ〜ねぇ〜♡」

軽く手を振りながら、瞳を細める。

「バルムート〜! 早く! こいつら片付けるんだよ〜!

あの方を、失望させないように!!」


バルムートの両肩から黒い炎が噴き上がる。

低い声で、しかし確かな意思を込めて応えた。


「……わかっておる!」


ズゥゥゥン!!


床が裂け、玉座の間が再び震え上がる。

その中で、ゼレギアグレスの足首の鈴が――チリ……と鳴っり…次の瞬間穴に吸い込まれたように消えた


アーシアは青ざめ、拳を握りしめた。

皆を失いたくない。

絶対に。


その強い祈りが、涙に滲む瞳に宿る。



つづく

【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854


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