表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/148

本人ごと斬りたい聖女

場面はアーシアとひめなへと移る。


アーシアは辺りの空気を確かめるように息を吸った。

「さっきの地鳴りは……?」


ひめな(魔槍デビルマスター)が冷静に返す。

「感知。悪魔の群れが近づいて来ている。」


アーシアの目に決意の灯がともる。

「わかりました。急いで、施設の、私の家族を助けに行きましょう!」


ひめなは無造作に先端をこちらへ向け、短く指示した。

「私を投げろ。黒い鎧の悪魔など、すぐに滅する。」


「わかりました!」


アーシアはひめなを強く握り、敵陣へと放り投げた。

魔槍は空中で唸りをあげ、自ら加速するように舞った。次々と襲いかかる黒い鎧の悪魔たちを、一閃ごとに断ち、薙ぎ払っていく。刃は疾風のように走り、鋼の甲冑を裂き、敵の影を空へと撒き散らした。


そして――ブーメランのように、ひめなは軌道を変え、真っ直ぐアーシアのもとへと戻ってくる。握り手が掌に収まる瞬間、アーシアは深く息を吸い込み、再び前へ踏み出した。


その時、建物の影に静かに、しかし不気味な声音が響いた。

「やぁ──アーシアではないか? 久しいなぁ……」


アーシアは立ち止まり、その声の方へと視線を向ける。

そこに佇むのは――大神官ダイナだった。その表情はどこか歪み、目に宿る光は冷たく澄んでいた。


アーシアは尋ねる。

「大神官ダイナ……様。あなたは……悪魔ですか?」


ダイナは不敵に笑みを浮かべ、ゆっくりと答えた。

「ストレートに聞くね。君は、どう見えるかい?」


アーシアは迷いなく返す。

「うーん! やっぱり、悪魔にしか見えません!! 時間もありません! 積年の恨み、晴らします!!」


ひめな 汗

(恨みになってるぞぉ〜アーシア)


アーシアは咄嗟に顔を赤らめ、言い直す。

「あっ……もとい! 大神官ダイナ様に取り憑いた悪魔です! 覚悟!」


ひめなは短く答え、槍の軌道を再び整える。

「取り憑いているかは、わからないが――やれ、アーシア!!」


アーシアは胸に槍を当て、深く息を吸い込んだ。


アーシアは槍を握りしめ、声を張り上げた。

「ひめなさん! お願いします!!」


槍の中から声が響く。

「了解。――投げろ、奴に!」


アーシアは大きく踏み込み、魔槍デビルマスター〈ひめな〉を大神官ダイナへと全力で投げ放った。

槍は音を切り裂き、真っ直ぐに突き進む。


だが――。


「神聖魔法――【結界】」

ダイナの低く冷ややかな声が響いた。


直後、光の壁がバシィッと広がり、ひめなの刃先は弾かれて宙を舞う。

重々しい衝撃音を立てながら、槍はアーシアの手元へと戻ってしまった。


「なっ……!? 神聖魔法……? まさか……」

アーシアの瞳が大きく見開かれる。


――神聖魔法。

本来なら、聖職者や神殿の者だけが使えるはずの力。

それを“悪魔の敵”であるはずの存在が放ったのだ。


槍を受け取ったアーシアは自信ありげに

「やっぱり!大神官ダイナ、そのものが寝返ってたんですね!!」


しかし、槍の中のひめなが短く答えた。

「いや……違う。確かに神聖の結界だ。だが……かすかに……“悪魔の力”も混じっていた」


大神官ダイナは嘲笑を響かせた。

「久しいな、アーシア。……さあ、続きを見せてくれ。“聖女”とやらの舞台を」


アーシアはぐっと歯を食いしばり、ひめなを構え直す。

「やっぱり大神官ダイナは操られてますね。あの人、“聖女”とやらの舞台をなど言いません! 私をアイドルとして見てますから!!」


ひめな 汗

「そ、そうかぁ…」


アーシアは苛立ちを隠せず、吐き捨てるように呟いた。

「はぁー、寝返ってたら切り刻めたのに…」


ひめなが慌てて制すように声を出す。

「聖女の言葉じゃないぞぉ〜」


すると、大神官ダイナの体から別の声が響き渡った。

「どうした? かかって来ないのか? ふふふっ、大神官ダイナを打つのは嫌か、やはり。私は大神官ダイナに取り憑いた悪魔、ムーマだ! どうだ? 手が出せまい!」


アーシアは冷然と返す。

「いいえ、本人ごと斬りたいぐらいです。」


ひめなが驚きを含んだ声を漏らす。

「うわー、本音…」


悪魔ムーマはその言葉に一瞬、戸惑いを見せる。

「え? どういうこと??」


ひめなは含み笑いのように短く説明した。

「その男はアーシアを利用して自分の地位を上げるため、聖女の奉仕よりアイドルの仕事を強要した悪党だ!」


悪魔ムーマは皮肉交じりに確認する。

「じゃあ人質にならないってことか?」


ひめなは断言する。

「その通り」


その瞬間、悪魔ムーマが取り憑いた大神官ダイナの体がわずかに揺らぎ、隙が生じた。

アーシアはためらわずにトコトコと近寄り、魔槍デビルマスターの平たい部分でダイナの頭をどついた。


――ガィイイイーー!!!


その一撃で空気が震える。悪魔ムーマと大神官ダイナの結びつきが引き裂かれるように分離し、二つはばたんと地に倒れて気絶したように目を回す。


ひめなは呆れたように吐露する。

「と、とりあえず悪魔ムーマは消滅させておこう。」


そう言って、ひめなはひと呼吸置き、アーシアは胸の奥でルイフェルを案じた。


――その頃、玉座の間では。


ルイフェルは覇獣バルムートと殴り合っていた。


ズガァッ!!

ドゴォーーッ!!!

バゴォーンッ!!!


血しぶきが飛び交い、大理石の床と壁が砕け散る。

拳と拳の衝突が、まるで雷鳴のように玉座の間を揺るがしていた。





つづく。

【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ