クルド族の少女
またもため息をつくノーム。
「相変わらずギクシャクしておりますなあ、アーシア殿と姫様は……」
旅の道中、口を利いてはいるが、どこか噛み合わないアーシアとルイフェル。
ぎこちない返事に、ノームも思わず眉(?)をひそめた。
「うん? 魔物を感知しましたぞ、お二人とも!」
杖の目がギョロリと動き、地面を見つめる。
「……あ、はい……」
「ふん……別にいいし」
返事がどちらも微妙に素直じゃない。
「……やれやれ、いつまでこの調子かの〜」
そのとき──
「きゃーっ!!」
少女の悲鳴が森の奥から響いた。
「!!」
3人が顔を上げた先には、熊のような巨体の魔物に追われる小柄な少女の姿があった。
少女には猫耳があり、髪はくしゃっとした暗めの茶髪。
身長は小さく、120cmほど。手には荷物袋を抱えて必死に逃げている。
服装はほころびた民族衣装のようなものにエプロン姿。
──クルド族の亜人だ。
「誰かぁああ助けてぇええ!」
ルイフェルが動こうとした、その一瞬前──
「ワンッ!!」
チワワのような見た目のウルワが唸り声を上げ、ふわっと体が膨らみ、巨大な狼のような姿へと変貌。
風を切るように駆け出し、追われていた少女──ミャーリの服の襟をガブッと優しく咥えて、魔物の前から飛び退いた。
「ウ、ウルワ!?!?」
アーシアが目を見張る。
ミャーリ「にゃ、にゃんだこの犬……!でも助かった……!?」
魔物「ギャアアアアッ!!」
興奮して突進してくる熊魔獣に──
ルイフェル「邪魔だ、消えろ!」
指を鳴らすとともに、巨大な漆黒の手が地面から現れ、魔物を叩き潰した。
ズガァァアアン!!
「…………おぉ〜」
少女は口をぽかんと開けたまま、ルイフェルとウルワを交互に見つめていた。
「名は?」
「えっ?わ、わたしはミャーリ。クルド族……です」
魔物をルイフェルが一瞬で消し去ったあと、
ミャーリは震える身体で草むらにへたり込んでいた。
そこに、アーシアが駆け寄る。
「どうしたの? 大丈夫……?」
その優しい声に、ピクッと耳を動かしたミャーリは、ぱっと顔を上げた。
そして次の瞬間──
「にゃっ!? ま、まさか……聖女アーシア様ではっ!?」
「えっ?」
ミャーリは両手で口元を押さえ、興奮気味に声を弾ませる。
「サイン持ってますにゃ〜! プロマイドも持ってますにゃにゃ〜〜っ!!」
興奮のあまり、しっぽをぶんぶん振り回すミャーリ。
「ぷ、プロマイド……!? サ、サイン……!?」
ルイフェルとノームがアーシアの顔を覗き込む。
「ふーん……なるほどねぇ。ファンがいるとは。」
「目立ちたい願望のあらわれじゃのう……」
「ち、違いますっ!!」
アーシアは耳まで真っ赤になり、両手を振って否定する。
「それはっ、大司教様が“布教活動の一環”と称して……神殿の、予算のために……あくまで仕方なく……!」
ルイフェルはニヤニヤしながら、「ふ〜ん?」と口元を吊り上げる。
「やめてくださいっ……!」
(ノームは呆れたようにぷかぷか浮いて見ている)
⸻
ひとしきり騒ぎが収まったあと、ミャーリがポツポツと語り出す。
「わたし、森で山菜をとってたら……魔物が出てきたんですにゃ……!」
「なんでまたそんな危険なところへ?」
「村の近くは“クルド族の子は寄るな”って……追い出されてたんですにゃ……」
少し寂しそうに目を伏せるミャーリ。
アーシアはミャーリの手を取る。
「もう、大丈夫です。これからは一緒にいましょう?」
「……うん……にゃ……!」
にゃにゃっと嬉しそうにしっぽを振るミャーリ。
だが、すぐにルイフェルが割って入る。
「その前に! この子、さっきからちょっと馴れ馴れしくない?」
「はぁ!? アンタの方がなんか偉そうじゃん!」
「こらーこのネコ耳っ!」
「ネコ耳って言うなーっ!! にゃにゃにゃにゃにゃ〜〜っ!!」
(アーシアとノームは困ったような笑顔で見守っている)
⸻
その横では──
ウルワがミャーリの足元にぴたっと寄り添い、
見つめながら「くぅん」と一鳴き。
「えっ……ごはん? さっき作って食べたの匂いする…?」
「お主、まさか料理目当てで……」とノームがぽそり。
「ミャーリさん、仲間になってくれるかな?」とアーシア。
「なってやってもいいですにゃ!」と得意げなミャーリ。
──新たな仲間を迎えて、少し騒がしくも温かい空気に包まれる一行であった。
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【ミャーリのイラストはこちら】
https://www.pixiv.net/artworks/132916828
アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。
ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!
▼アルファポリス版はこちら
https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191




