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門前の試練

場面はルイフェル達に戻る。


城の門の間に、悪魔達が数匹控えていた。


ルイフェルの手に握られた魔槍デビルマスター――ひめなが、冷静に告げる。

「ここだけで……五十以上はいる。囲まれてる」


アーシアは息を整え、両手を合わせて印を結んだ。

「……結界を展開しながら進みましょう」


ルイフェルは金色の瞳をぎらりと光らせ、口角を吊り上げる。

「わかった! アーシアは後方支援だ。我の背を任せた!!」


彼女はひめなを強く握り直し、声を響かせた。

「――ひめな、行くぞ!」


「了解!」


門前に立ちはだかる悪魔たちは、姿も声も異様だった。


――ギャアアアアッ!!

甲高い奇声を上げながら、背丈ほどの短剣や槍を振りかざす小さな悪魔の群れが地を這うように突進してくる。身の丈は人間の子供ほどしかないのに、その数は圧倒的だった。


「……群れで押しつぶすつもりか」

ルイフェルが低く呟く。


その頭上からは、石の皮膚を持つ化け物が羽音を立てて降下してきた。城壁に張りついていたそれらは、まるで石像が命を得たかのように翼を広げ、鉤爪と石斧を振りかざしながら結界を叩き割ろうと狙ってくる。


「アーシア! 上だ!」

ひめなが槍のまま叫ぶ。


さらに地を駆ける黒い影――四足の獣たちが咆哮を上げた。真っ赤に燃える口腔から炎を吐き出し、走り回りながら獲物を混乱させる。牙と炎の二重の猛攻が結界を焦がし、熱気が肌を焼く。


そして最後に現れたのは――人の姿を模した、影の兵士たち。鎧に剣と槍を携え、整然と列を組んで進軍してくる。だがその足音は無音で、兜の奥には空洞しか見えない。まるで死んだ近衛兵の幻影が歩いているかのような、不気味な軍勢だった。


「くそっ!ただの悪魔の群れじゃねぇな」

ルイフェルはひめなを構え直し、金の瞳をぎらつかせる。

このままだとアーシアが危ないと思ったルイフェルは決断した。


アーシアは震える手で印を組み、仲間を覆う結界を展開した。

「……皆さん、後ろは任せて!」


「魔法陣展開!」

ルイフェルの叫びと共に、地獄の門番を思わせる召喚陣が輝き始める――。


アーシア

「えっ!?」


ルイフェルは悪魔の群れを睨みつけ、鼻で笑った。

「門を守るつもりか……なら、見せてやろう。本物の門番を!」


地面に魔法陣が広がり、灼熱の亀裂が走る。

「――来いッ! ケルベロス!!」


咆哮と共に地獄の炎が噴き出す。

「ガウゥゥゥアァァァーーーッ!!!」


現れたのは三つ首の地獄の番犬。

その瞳は血のように赤く輝き、口から灼熱のブレスを一斉に吐き出す。


――ドォォォォォン!!


業火が悪魔たちを飲み込み、悲鳴もろとも黒焦げに変える。

焼けただれた臭いが漂い、門前にいたはずの五十体の悪魔が一瞬で灰と化した。


ルイフェルは金色の瞳をぎらつかせ、肩で荒く息をしながらも、口角をわずかに上げた。

「フン……門には門番だろ? 似合いの奴を呼んでやった」


その言葉を吐き終えると、力尽きたように片膝をつき、荒い息が漏れた。

召喚の余波で周囲の空気はまだ熱を帯び、焦げた臭いが漂っている。


三つ首の地獄の番犬――ケルベロスは、門前を覆う悪魔の群れを焼き尽くすと、

最後に低く唸り声をあげ、静かに炎の中へと消えていった。


「ルイフェル様!」

アーシアは心配そうに駆け寄り、揺れる銀髪を振り乱しながらその肩を支えた。

「むちゃしすぎです。召喚なんて……あれほどの力を使えば……!」


彼女の声は震えていた。

結界を維持しているせいだけではない。

ルイフェルが無茶をするたび、胸が張り裂けるような思いをするからだ。


ルイフェルは額に汗を浮かべ、口元を歪めて笑った。

「大丈夫だぁ……少しよろけただけだ」


強がりにしか聞こえない声。

だがアーシアは、それを否定せずにただ支えることしかできなかった。


赤い絨毯の奥から、規則的な拍手が響いた。

その音に導かれるように二つの影が階段を降りてくる。

声がする。

よくあれだけの悪魔を倒しましたね


「可愛い聖女ですねぇ……」

黒髪を撫でつけ、公爵風の衣装を纏った男が口角を上げる。

「姉君、あの聖女は僕の獲物に」


「ふふ、いいでしょう。わたくしは……地球から来た悪魔をいただきますわ」

淡いピンクのドレスを翻し、女が冷ややかに笑う。


赤い瞳孔と黒い白目。異様な双眸が、ルイフェルとアーシアを射抜く。


ルイフェルはひめなを構え直し、声を荒げた。

「勝手に話を進めるなー!!」


「ほう〜……威勢がいいですわね」

艶やかな声が響き、赤い唇が笑みを形づくる。

「わたくしの名は――グレーテールと申しますの。こちらの可愛い弟は――ヘンゼールですわ」


黒いドレスを翻すその女の瞳は、底知れぬ悪意と嗜虐の光に満ちていた。

隣に立つ青年――漆黒の髪に公爵然とした装いを纏う悪魔が、冷ややかに指を鳴らした。


「……聖女は、僕がもらう」


パチン、と音が鳴る。

その瞬間、アーシアが立っていた床がじわじわと黒く染まり、沼のように溶け落ちていった。


「きゃあぁぁっ!!」

足元を奪われたアーシアは悲鳴をあげ、瞬く間に黒い深淵へと飲み込まれていく。


「なっ……!? 何だと!!」

ルイフェルの金色の瞳が怒りに燃え、すぐに決断する。

「くっ……! ひめな! 頼む!!」


槍を握る手が閃き、彼女はアーシアに向かって投げ放た。


「――アーシア!!」

ひめなの叫びと共に、その姿もまた黒い沼に呑まれていく。


残されたのは、ルイフェルの目の前に立つ悪魔姉弟。


グレーテールは扇のように手を広げ、楽しげに声をあげた。

「あらあら……あなた。武器もなしにわたくしとやり合うおつもり? 随分と失礼な方ですこと♡」


ヘンゼールはちらりと姉を見やり、無機質に告げる。

「姉君。僕は聖女を“悪夢”の中へ導きます」


そう言い残すと、彼の姿は黒い沼に沈み、完全に掻き消えた。


「ふふっ……ヘンゼールにおもちゃにされる聖女……少し可哀想ね〜」

グレーテールの赤い唇が、嘲るように吊り上がる。


「……フン!」

ルイフェルは口角を上げ、怒気を孕んだ声を響かせた。

「アーシアを――あまり舐めないことだなぁ!!」


暗闇――。

アーシアは足元の感覚を失い、どこに立っているのかすらわからなかった。

湿った風もなく、音もない。

ただ、自分ひとりがぽつんと閉じ込められているような、そんな不気味な空間。


「……ここは……? たしか……ひめなさんが……」

震える声で名を呼んだその瞬間。


――アーシアちゃん!

――アーシアさん!

――アーシア姉さん!


耳に懐かしい声が響いた。

振り向くと、そこには孤児院の子どもたちとシスターの姿。

いつも笑顔で囲んでくれた、あの温かな食堂が広がっていた。


「え……?」

気がつくと、アーシア自身も小さな子供に戻っていた。

テーブルの中央には、ケーキ。

灯された蝋燭が、揺らめきながら優しく光を放っている。


「今日はアーシアちゃんの誕生日! みんなでお祝いしましょう」

シスターの声は、あの日と同じくらい優しくて心地よかった。


アーシアの胸に熱いものが込み上げる。

「こ、これは……」


――その瞬間。


子どもたちの姿が炎に包まれた。

ケーキも、テーブルも、シスターすらも。


「火を消してー!」

「熱いっ、熱いよぉ!!」

「あぁ……助けて……アーシアぁ!」


声が渦を巻き、耳の奥を焼き付けるようにこだまする。

焦げた匂い。赤黒い炎。

目の前の光景は祝福から一転、地獄の惨劇へと変貌した。


「くっ……悪魔!! あなたの仕業ですね! 出てきなさい!!」

震える身体を必死に支え、アーシアは怒りに声を張った。


――ククッ……面白い。

背後から低い声が響いた。

「心が折れるまで、何度でも……何度でも見せてやろう」


血のように赤い目が闇の中で光り、影がにじり寄る。

それは、アーシアの心を弄ぶ者の姿だった。



一方そのころ、城門前。

ルイフェルは槍を失ったまま、グレーテールの前で武器もなく構えていた。

彼女の唇に浮かぶ嘲笑は、闇よりも冷たく鋭い。


ルイフェルは歯を食いしばり、口角を吊り上げる。

「……くそっ…面倒だ……だが――まだ終わってねぇぞ」


赤い絨毯の階段を下りながら、グレーテールは扇を広げるように両手を広げた。

その指先からは紫色の煙がふわりと舞い、甘ったるい香りを含んだ毒霧が辺りを覆っていく。


「ふふっ……効いてきたんじゃなぁい?」

艶やかな唇を歪めて、毒を撒き散らす彼女。


アーシアを奪われ、武器を失ったままのルイフェルは、鋭い金色の瞳を向けたまま黙して動かない。

その姿に、グレーテールはさらに愉快そうに笑った。


「もっと振りまいてやるわ〜! それぇっ!」

再び毒霧が渦を巻き、ルイフェルを飲み込もうと押し寄せる。


だが――。


――ドスッ!!


「……な、に……?」

気がつけば、ルイフェルの手刀が彼女の胸を貫いていた。


「おまえの能力が毒で助かった」

ルイフェルの声は低く、嘲るように冷たい。

「我の配下に“毒使いのベルゼバブ”というものがいる。あやつとは何度か手合わせしたからな……毒にはとっくに耐性ができてんだよ」


グレーテールの瞳が大きく見開かれ、赤黒い血が口端からにじみ落ちた。

「そ……そんな……」


ルイフェルは口角をわずかに吊り上げ、冷然と告げた。

「門前の遊びはここまでだ――」


彼女の体が崩れ落ちる音が、静かな門前に響いた。


ルイフェルはアーシアが消えた場所を見つめ無事を祈った。




つづく

【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854


アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。

ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!


▼アルファポリス版はこちら

https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191

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