表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/114

決戦の幕開け ― 悪魔達、集結

朝方――。

夜の帳がゆっくりと明け、水平線の彼方から淡い光が差し込む。

冷たい潮風が甲板を抜け、不気味なほど張り詰めた空気を揺らした。


そのときだった。

甲板の中央に刻まれた召喚陣が淡く輝き、風が唸りを上げる。

――夜空を切り裂くように、不気味な風が吹き荒れた。


ルイフェル(低く呟き)

「……来る」


光の柱が立ち上がり、その中から三つの影が浮かび上がった。

やがて光が収まったとき――召喚された美しいブロンドの髪の三姉妹の姿が、そこにあった。


長女ステンノーは、深紅のドレスを纏い、その布には炎のような刺繍が走っていた。力強い腕には黄金の腕輪が輝き、背筋は剣のように真っ直ぐ。見る者を圧倒する威容を放っていた。


次女エウリュアレーは、紫紺のドレスを身にまとい、流れる布地はまるで夜の海のように艶やかだった。腰元に垂れたベルトには宝石が散りばめられ、微笑むだけで妖しい香りが漂う。


末妹メデューサは、純白に銀糸が縫い込まれたドレスを纏っていた。淡く輝くその衣は、朝焼けの光を反射し、神秘的な雰囲気を醸し出す。しなやかな肢体を包み込み、その瞳に宿る金の輝きが、まるで聖女のように荘厳だった。


三人はそれぞれ大盾を携えていた。

盾の表には蛇の意匠が彫り込まれており、まるで生きているかのように舌を伸ばし、目を光らせる。


ローラ(小声で息を呑む)

「うっ……美しいけど……怖い……!」


ミネルバ(眼鏡を押し上げながら)

「ただの美ではない……“魔眼”を宿す者たち……」


アーシア(驚きに瞳を見開いて)

「これが……メデューサ三姉妹……」


三姉妹は声を揃え、厳かに誓った。

「――われらは呼ばれし者。盾に宿る蛇は敵を縛り、石へと変える。

あなた様の母君達に姿を元に戻していただいた恩にも報いるため、

全身全霊を尽くすことを、われら三姉妹――果たさせてもらいます」


その言葉と同時に、三人の盾が淡く光り、甲板に蛇のような影が這う。

異様な威圧感と同時に、不思議な安心感さえ漂った。


ルイフェル(力強く頷いて)

「頼むぞ!」


メデューサ(三女が一歩前に出て、金の瞳を光らせ)

「……心得ました」


朝焼けの光が三姉妹の姿を照らし出し、その神秘的な輪郭が甲板に刻まれた。

神話の存在――「メデューサ三姉妹」。

その力が、決戦に向けて解き放たれたのだった。


甲板の上に、ルイフェルの声が響いた。

「――次は……リリス! 召喚ッ!!」


ポンッ!

甲板の中央に黒い煙が立ちこめ、赤黒い魔法陣が弾ける。

次の瞬間、甘い香りとともに、ひとりの少女が姿を現した。


黒を基調とした小悪魔衣装に身を包み、緑の髪は艶やかに揺れている。

瞳は悪魔特有の深紅に染まり、唇には小悪魔らしいピンクの口紅。

背中には小さな蝙蝠の羽が、ぱたぱたとせわしなく動いていた。


彼女は腰に手を当て、いたずらっぽく笑った。

「ルイちゃん、ひっさしぶり〜! ふぅん……なんか大人っぽくなったんじゃない? あー、これはぁ〜恋してる顔だねぇ?♡」


ルイフェルは顔を赤くし、汗を垂らしながら手を振る。

「……い、今はそんな話はいいから!」


リリスはさらに顔を近づけ、唇に笑みを浮かべた。

「はは〜ん♡ やっぱり図星だぁ〜! 相変わらず奥手なんだからさぁ、ルイちゃんってば〜」


ルイフェルはからかうリリスの問いを無視し

「リリス! お前の魅了で兵士たちを翻弄してくれ! 怪我させずに、戦えるだろ!」


リリスは目を細め、羽をぱたんと打ちつける。

「はぁ〜い♡ わかってるよ〜。魅了で操って、兵士たちを無力化すればいいんでしょ? でも……」

わざと顔を近づけ、耳元で囁いた。

「ご褒美、あとで忘れないでね♡」


「ご、ご褒美なんてないからっ!!」

ルイフェルは真っ赤な顔で叫んだ。


周囲で見ていた仲間達は、思わず目をそらし、気まずそうに苦笑する。

アーシアは頬をふくらませ、ミャーリはにやにやと尻尾を揺らしていた。


そんな空気を振り払うように、ルイフェルは手を掲げて叫んだ。

「……次だ! ベルゼバブ――召喚ッ!!」


再び甲板に魔法陣が浮かび上がり、重々しい轟音が夜明けの空気を震わせる。

血のように赤い光が走り、風が荒れ狂った。


女船長ゾイル(息を呑み)

「……なんだい、この威圧……!」


メデューサ三姉妹は片膝をつき、頭を垂れて敬意を表した。

リリスでさえ震えながら、声を押し殺すように呟く。

「べ、ベルゼバブ様……!」


魔法陣が炎のように赤く燃え上がり、黒き煙が吹き出した――。

そしてそこから姿を現したのは……。


「……えっ?」

皆の声が一斉に重なった。


ベルゼバブは、なんと寝巻き姿だった。

胸元にはアーシアのイラストが大きくプリントされ、両腕にはアーシアそっくりのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめている。

その姿に、甲板の空気が一瞬で凍りついた。


ベルゼバブ(きょろきょろと周囲を見回し、寝ぼけ声で)

「ん……? ここ、どこ? え……?」


ルイフェル(あせあせしながら)

「あ、あの〜……召喚、こんな朝方にごめん……」


ベルゼバブ(眠そうに目をこすりながら)

「……えぇ? 召喚……? ……えぇぇぇ!? 召喚ッ!!?」


ルイフェル(困ったように)

「……はい」


ベルゼバブはしばらく呆然とした後、皆が凝視していることに気づき、顔を真っ赤にした。

「うわぁぁぁぁ! み、みんな見てるじゃないさぁ〜!!」


指をパチンと鳴らす。

瞬間、寝巻きは鮮烈な真紅のドレスに変わり、胸元の黒薔薇が妖艶に光を放った。

黒髪は風に舞い、赤い瞳がぎらりと輝く。

足元には赤いヒールが甲板をコツリと叩いた。


そこに立っていたのは――悪魔の王と呼ばれた存在。

ベルゼバブは妖艶に微笑み、あたかも最初から完璧な姿で召喚されたかのように振る舞った。


ベルゼバブ(咳払いしながら、堂々と)

「私が――“悪魔の王”とも言われたベルゼバブさぁ!

ちなみにねぇ、ルシフェー様とサタン様は“大悪魔王”なんだよ。

だから私は“悪魔の王”って名乗れるのさ! よろしくねぇ♪」


ルイフェルは冷ややかな目で彼女を見て、小さくぼやいた。

「……なんか締まらないなぁ。実力は折り紙つきなのに」


アーシアは引きつった笑顔で、思わずルイフェルに耳打ちした。

「……あの……ぬいぐるみ、まだ持ってますけど……?」


ベルゼバブはこっそり後ろに手を回し、ぬいぐるみを隠そうとした。

しかしメデューサ三姉妹とリリスの視線は、鋭くそこに突き刺さっていた。


ベルゼバブは甲板からひらりと飛び降り、砂浜に軽やかに着地した。

真紅のドレスが夜明けの風に翻り、彼女の赤い瞳が妖しく光る。


ベルゼバブ(両手を広げ、大声で)

「ハァー! 仕切り直しだよー! 我が配下――ハエ達よ、集え!!」


地面に魔法陣が走り、赤黒い稲光が砂浜を裂いた。

その光から、無数の影がぞろぞろと現れる。燕尾服を着こなした男たち……いや、ハエの顔を持つ紳士達が、きびきびと整列してベルゼバブを囲んだ。


「ベルゼバブ様――!」

その中で一際大柄なハエ男爵が片膝をつき、恭しく頭を垂れた。

「ご命令どおり、集まりました!」


甲板から見下ろす女船長ゾイルは、思わず唾を飲み込む。

「……すごいねぇ。あの数を一瞬で召喚するなんて……」


メデューサ三姉妹も目を見開き、それぞれが口々に褒め称える。

「流石はベルゼバブ様……」

「お力、やはり本物……」

「畏れ多い……」


リリスはくすっと笑いながら肩を揺らす。

「でもさぁ、ベルゼバブ様ってば……なーんかお茶目だよね♡ ふふっ」


その様子を船から見ていたエルフィナは、ふと声を上げた。

「あっ! ハエ男爵様、お久しぶりですわ!」


ハエ男爵は大きな複眼を輝かせ、喜び勇んで顔を上げた。

「おおっ、麗しきエルフィナ姫! ご無沙汰しております!

ぜひこの場で、お互いの喜びを分かち合うため――ギュッと抱きしめ合いましょう!」


「セクハラ!」

即座にメイ=スケが飛び出し、エルフィナの前に立ちはだかった。


メイ=スケ(じと目で、だるそうに)

「……姫様の前に出て来るなんて、ずーずーしいんですよぉ〜」


エルフィナは慌てて両手を振った。

「えっ、メイ=スケったらまたぁ〜。そんなこと言うもんじゃありませんわ」


だがハエ男爵は気にせず胸を張った。

「さすが姫様! 寛大なお心! ではそちらに参ります!!」


その瞬間、ベルゼバブの手が彼の肩をがっしり掴んだ。

「行かせないよ〜。あんたさぁ、またセクハラしてるのかい?」


ハエ男爵は慌てふためき、ぶんぶんと腕を振る。

「め、滅相もございません! 決してそのようなことはっ……!」


ベルゼバブ(片眉を上げ、冷たい笑みで)

「ふーん……?」


一方、エルフィナは首を傾げて、ぽかんとそのやり取りを見ていた。

「??? ……わたくし、何か間違っておりますの?」


船上にいた全員が、苦笑いとため息を同時に漏らした。


甲板に立つルイフェルの金の瞳が、朝日に照らされて鋭く光った。

その声は戦場を告げる号令のように力強く響く。


ルイフェル(右手を突き出し、叫ぶ)

「ベルゼバブ! 町の人々の保護と、敵悪魔の討伐――頼む!!」


砂浜に立つベルゼバブは、真紅のドレスをひるがえし、にやりと口角を上げた。

「了解さぁ!」


彼女は大きく両手を広げ、夜明けの風を全身に浴びながら高らかに叫んだ。

「久方ぶりの……戦場だねぇ! さぁ暴れるよー!! ――あんた達ッ!!」


その号令に応えるように、ハエ男爵率いる燕尾服のハエ紳士軍団が一斉に翼を震わせた。

空気が振動し、低い羽音が大地を覆い尽くす。


「ベルゼバブ様に続けーーっ!!」

ハエ男爵の声に合わせ、兵団は一糸乱れぬ動きで進軍を開始する。


その光景に、女船長ゾイルは思わず目を細め、呟いた。

「……やれやれ、とんでもない援軍だねぇ……」


甲板で見守っていた仲間たちの胸にも、熱が込み上げる。

エルフィナは拳を握りしめ、ミャーリは耳をぴんと立て、天使ちゃんは涙を浮かべながら「すごいですぅ!」と声を上げた。


やがて――。

空も大地も揺るがすような羽音と共に、戦の幕が上がったことを告げる


つづく

【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854


アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。

ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!


▼アルファポリス版はこちら

https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ