決戦前夜――仲間たちの配置
決戦を明日に控え、王都ルイザを見下ろす山の上。
風が草を揺らし、遠くに見える町並みは静かに沈黙していた。だが――ただの静けさではない。張り詰めた恐怖がその空気を覆っていた。
ローラ(身をかがめて、目を凝らしながら)
「よし、ここなら町全体が見渡せるね。マーシャ、あんたの耳で町の人達の声、拾える?」
マーシャはゆっくり目を閉じ、指先を耳に添えるようにして集中する。
瞳がふわりと光り、彼女の聴覚は遠くへと伸びていった。
マーシャ(眉を寄せて)
「……うん、聞こえるよ。……みんな、怯えてる。町の人達は声を潜めて震えてる。兵士達が……所狭しと見張ってるみたい」
ローラ(唇を噛みながら)
「やっぱりか……。ミネルバ、次はあんたの目で確かめて」
ミネルバは無言で頷くと、眼鏡を外した。
瞳が妖しく光り、まるで遠くを見透かすかのように町を凝視する。
ローラ(ごくりと息を呑み)
「……どうだい?」
ミネルバ(低い声で)
「町の人達は……ほとんど家に閉じ込められてる。軟禁状態だね。動けないようにされてる……完全に人質にするつもりだ」
ローラは拳を握りしめ、立ち上がった。
「やっぱり……そういうことか。じゃあ次は、あたいの番だね!」
彼女はにっと笑い、地を蹴る前に軽く腕を振る。
「町の人が逃げれるルートを探ってくる! 瞬足!!!」
――ビューーーッ!!!
風を裂く轟音が山を駆け抜けた。
ローラの身体は、もはや肉眼では追えない速度で町の中へと駆け出していた。
町の大通りに潜む兵士が、不意に風を感じて顔を上げる。
兵士(眉をひそめて)
「ん……? 風……?」
彼らの背後を、ローラの影が疾風のごとく駆け抜けていった。
気配すら捉えられず、ただ空気だけが震えた。
ローラ(心の中で)
(絶対に……必ず逃げ道を見つけてやる! 町のみんなを、この手で守るんだ!)
彼女の足音は風となり、王都ルイザの町を縦横無尽に走り抜けていくのだった。
船に戻った三人――ローラ、マーシャ、ミネルバは、息を整える間もなく甲板に集まった。
そこには女船長ゾイルを中心に、アーシア、ルイフェル、そしてエルフィナ達が待っていた。
ランプの灯がゆらめき、夜風が船の帆を鳴らす。空気は緊張と決意で張り詰めていた。
ゾイル(腕を組み、鋭い眼差しで皆を見渡す)
「さて……偵察の結果はもう十分だろう。ここからは配置と役割を決めるよ」
ルイフェル(短く息を吐き)
「俺とアーシアは……王城だ。王の間に直接向かう」
その言葉にアーシアは真剣な表情で頷いたが、ルイフェルは眉を寄せ、言いにくそうに続けた。
ルイフェル(低い声で)
「……本当は、お前を連れて行きたくない。危険すぎる」
アーシア(揺るぎない声で、両手を胸に)
「いいえ。今回……召喚を行うのは私です。ルイフェル様がもし危機に陥った時、助けたいんです。だから……お願いします。行かせてください」
一瞬の沈黙の後、ルイフェルは大きく息を吐き、渋々うなずいた。
ルイフェル(苦笑しながら)
「……わかった。お前の覚悟は本物だな。なら、俺も信じる」
⸻
ゾイル(視線をエルフィナ達に向けて)
「次は……シリア様の救出だね」
エルフィナは真っ直ぐに立ち上がり、ティナ=カク、メイ=スケと目を合わせる。三人は互いに頷き合った。
エルフィナ(強い眼差しで)
「当然! わたくし達が参ります!!」
その時、ローラが一枚の紙を差し出した。
風に揺れる張り紙――そこには冷酷な文面が記されていた。
ローラ(険しい顔で)
「これ……町で見つけた。至る所に貼られていたよ」
エルフィナは受け取り、目を走らせる。
そこにはこうあった。
――『シリア王女は、トライヤ第五王女エルフィナと結託し、国を揺るがす謀反を企てた。その罪により、三日後に裁判を行う』――
エルフィナの手が震え、紙がくしゃりと音を立てる。
「……ふざけてますわねっ!!」
怒りに燃える瞳は、仲間達の前で炎のように輝いていた。
船室に張りつめていた緊張は、甲板に集まった皆の姿でさらに濃くなっていた。夜の海風が帆を揺らし、灯されたランプの光が、仲間達の決意を映し出す。
女船長ゾイル(大声で)
「次は私らだね! 町の人々を安全地帯に導く役目。……ローラ、マーシャ、ミネルバ! あとはルイフェルのとこの召喚者達だね。なんだっけかぁ? 名前」
ルイフェル(あっけらかんと笑いながら)
「まず“ベルゼバブ”。それから石化の魔法が使える“ステンノー”“エウリュアレー”“メデューサ”の三姉妹。そして“リリス”だなぁ」
ゾイルは腕を組み、難しい顔をした。
女船長ゾイル(首をかしげて)
「難しいねー名前なんか。……“正義の悪魔達”でいいんじゃないか?」
ローラ(即座にツッコミ)
「いやいや〜! そんなまとめて呼んだらだめですよー!」
マーシャ(ふんわり笑いながら)
「うん、ちゃんと呼ぶべきです〜」
ミネルバ(眼鏡をくいっと押し上げ、真剣に)
「船長、私達がちゃんと呼んで意思疎通しますので……任せてください」
女船長ゾイル(頷いて)
「そだねー、頼むよー」
そこへ、船内から上がるドアがギィと開いた。
現れたのはコック長のおばちゃん。両手に大きな鍋を抱えている。
コック長おばちゃん(眉をひそめて)
「あんたも歳だねぇ……名前ぐらい覚えなよ」
ゾイルは苦笑して肩をすくめる。
コック長は鍋をドンと甲板に置き、笑顔で告げた。
コック長おばちゃん
「これスープだよ〜。ミャーリちゃんと作ったんだ。美味しいよ。それで、私らが後方支援だね」
天使ちゃん(ぱぁっと顔を明るくして)
「はいっ! 怪我人はこっちに! 料理はコック長さんとミャーリちゃんで! 海ちゃんは……みんなに“水の膜”でガードを。町と王都の人々全員に!」
ゾイル(目を細め、低く)
「前にも聞いたが……大規模だね。相当力が入りそうだね。それで本人、海ちゃんは?」
天使ちゃん(少し不安げに)
「今は、魔力を練ってます。昨日からずっと休憩なしにしていて……心配です」
ゾイル(うなずいて)
「そうかい。……よし!」
女船長は両手を広げ、皆の顔を見回す。
女船長ゾイル(声を張って)
「さぁ! スープ飲んだら寝るよー! よく寝て明日に備えて……皆、頑張ろう!!」
「おーっ!!」
仲間達は片手を高く掲げ、力強く気合を合わせた。
夜の波音に、その声が溶けていった。
つづく
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