迫り来る決戦
甲板に立つ女船長ゾイルは、潮風を切るような大声を張り上げた。
「お前達! 船を動かすよ!! ここだとまた兵士が来る!! 隠れられる近くの岬に向かうよ!! あいつらも出港したと思うだろうし一石二鳥さぁ!」
その声に、ローラ、マーシャ、ミネルバたち船員は即座に動き出した。
ロープを外し、帆を張り、怒涛のように出港準備が整っていく。木の甲板が震え、船は静かに港を離れ始めた。
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船室に戻ったアーシア達。
エルフィナは真剣な眼差しで、これまでのことを仲間たちに整理して語った。船長達の正体、シリアの安否、そして――アーシアは自分の故郷施設についても話しを続ける。
その声に、皆は言葉を挟まず、ただ真剣に耳を傾けていた。
そこへ、天使ちゃんが扉を開けて入ってくる。
「メイドさんが回復しました。今は起きて……エルフィナ様と話がしたいそうです」
エルフィナは深呼吸をして、仲間たちに視線を巡らせた。
「わかりました。皆さん。詳しく聞いてまいりますわ」
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船の医務室。
白布がかけられたベッドの上で、まだ顔色の悪いメイドが上体を起こしていた。呼吸は浅いが、その瞳にははっきりとした意志が宿っている。
エルフィナは椅子に腰を下ろし、そっと彼女の手を取った。
「……大丈夫ですの?」
メイドは弱々しく首を振り、かすれた声で言葉を紡いだ。
「わたくしのことは……構いません……。それよりも……シリア様のことを……」
エルフィナは姿勢を正し、真剣に耳を傾ける。
「……どうか、教えてくださいませ。シリア様に……何が」
メイドの唇が震え、血の気を失った指先が布をぎゅっと握りしめる。
「シリア様は……お城の中で……囚われの身に……。陛下の御前で……“見せしめ”にされようとしております……」
エルフィナの目が大きく見開かれる。
胸に広がる衝撃と怒りを、必死に抑えながら、彼女はさらに、聞き取ろうと身を乗り出した。
エルフィナ
それは裁判にかけられるってこと?それはいつに?
メイド
はい…3日後に…
エルフィナ
わかりました。ありがとうございます。ゆっくりあなたは休んで回復してくださいませ。
メイド 涙を浮かべ
はい…どうか…シリア様を
メイドは眠りにつく…
船内食堂
船室の空気は、張りつめた弦のように緊張していた。
外では潮風が窓を震わせ、遠くから聞こえる兵士たちの喧噪が不穏さを煽っている。
ティナ=カク(低い声で、真剣な眼差しで)
「……これ、大規模な戦いになりそうです。しかも……町の人を守りながら戦わないといけなくなりますね」
海ちゃんは椅子から勢いよく立ち上がり、両手を広げるようにして言った。
海ちゃん(にやりと笑って)
「町、お城全域に雨を降らせて……敵以外を、私が個別に水の力で守りぬくよ!」
その言葉に、天使ちゃんが青ざめて首を振った。
天使ちゃん(慌てて翼をばたつかせ)
「か、海ちゃん!? そんなことしたら……力がオーバーヒートしちゃうよ! 絶対やめて!」
海ちゃんは頬をぷくっと膨らませ、ふてくされたように笑う。
海ちゃん
「大丈夫! グフフ……心配しないで」
ルイフェルは腕を組み、金色の瞳を細めた。
ルイフェル(低く、決断の声で)
「……町の守りに、ベルゼバブを召喚しよう」
その名が告げられた瞬間、船室に重苦しい気配が広がった。
空気がずしりと沈み、誰もがその存在の持つ威容を意識する。
アーシアは思わず息を呑み、両手をぎゅっと握りしめた。
(ベルゼバブ様……でも、それだけでは……きっと足りない。敵の脅威は……まだ何か……もっと大きなものが来る気がする……!)
女船長ゾイル(腕を組み、豪快に笑って)
「はっ! なら私達もだ! 町の人達は……あんた達だけじゃ守れないだろう? 任せな!」
ローラ(胸を張って)
「もちろん! あたいらも全力でいくよ!」
マーシャ(ふんわりと微笑んで)
「そうそう〜、守らなきゃね〜。逃げてばっかりじゃ疲れちゃうし〜」
ミネルバ(眼鏡を押し上げ、真剣な表情で)
「町を守ることこそ……船長に拾ってもらったわたし達の使命です」
料理長おばちゃん(腰に手を当て、にやりと笑い)
「やれやれ〜……仕方ないねぇ。あたしゃ“鋼のバール”に戻ろうかね。骨の一本や二本、折ってやるさ」
船室に漂っていた重苦しさが、彼女たちの声でわずかに和らいだ。
アーシアは胸の奥で、確かに心強さを感じていた。
しかし――。
その一方で、どうしても拭えない「違和感」が胸に引っかかっていた。
(……何か……まだ隠された脅威が……。リュミナ様……私に教えてください。どうすれば皆を守れるのですか……?)
アーシアは目を閉じ、震える胸を押さえながら、次に来る試練を想像していた。
つづく
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イラストはこちら(Pixiv)
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