表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/149

守る者たち

船上から、腹の底まで響くような声が放たれた。


女船長(両手を腰に当て、甲板から兵士達を睨み下ろし)

「おーい! あんた達!!! 兵士さんよぉ! 私はここの船の船長をやっているものだよ! エルフィナ? そんな子いないねー!!」


兵士(怒声を上げ、槍を突きつけながら)

「うそをつくなー!! 庇い立てするならお前も捕まえてやる! 今からそちらに行く! 覚悟するんだなー!!」


――ビュードンッ!!


女船長が、迷いなくタラップ(階段)の前に飛び降りてきた。


兵士(慌てて武器を構える)

「う、うわーっ!? 貴様! タラップを使わせないつもりかぁ! 斬り捨てるぞ!!」


エルフィナ(甲板から手を伸ばし、声を張り上げる)

「あっ! 女船長が危ない……行かないと!」


しかし、その腕を制したのは三人の船員だった。


ローラ(余裕たっぷりに笑って)

「まぁ〜見ててくださいよ、エルフィナ様」


マーシャ(のんびりと頬に手を当て)

「だいじょーぶですってぇ〜」


ミネルバ(真剣な顔で眼鏡を押し上げる)

「船長は……そういう人ですから」


エルフィナ(ぽかんとしながら)

「えっ……?」


女船長は眉間をピクピクと震わせ、苛立ちを隠さず兵士達を睨んだ。


女船長

「あんたらぁ、私の話、聞けないのかい?」


兵士(槍を突き出し怒鳴る)

「何を言っているんだ! そこをどけ!!」


次の瞬間――。

女船長は一歩踏み込み、兵士の顔面を片手でがしっと掴み上げ、そのまま軽々と持ち上げた。


「ぐわーーっ!!」


兵士(驚愕の叫びを上げながら)

「な、何をする!」


女船長(深いため息を吐き、左手を掲げて)

「仕方ないねぇ……あまり知られたくなかったんだがぁ!!」


ゆっくりと手袋を外すと、その手の甲に鮮烈な紋章が浮かび上がった。


兵士の一人(血の気が引いた顔で後ずさり)

「な、なんだとー!? あれは……伝説の冒険者……!!」


もう一人の兵士(叫びながら仲間を押しのけ)

「お、俺は逃げる!!」


次々に悲鳴が上がる。


兵士達

「で、伝説の冒険者ゾイルだぁ!! に、にげろーーーっ!!!」


女船長――いや、ゾイルは腰に手を当てて、呆れ顔で笑った。


ゾイル(肩をすくめて)

「なんだいなんだい……私を化け物みたいに言ってさぁ。しつこく食い下がるなら……私が相手してやろーじゃないかい?」


兵士長(顔を真っ青にし、必死に手を振りながら)

「滅相も、もないっ!! 皆、いくぞーーーっ!!」


兵士達は蜘蛛の子を散らすように退散していった。


船上で、兵士たちが「ゾイル」の名に恐れ慄いて逃げ去ったあと。

エルフィナは呆然と立ち尽くしていた。


エルフィナ(呆然と口を開けたまま)

「あ、あの……伝説の竜殺しの……ゾイルさんが……あの方? え……?」


ローラがにやりと笑い、腰に手を当てる。

「ふふん、そうだよ! あたしたちの船長は、ただの船乗りじゃないんだから!」


マーシャはのんびりした声で続けた。

「おばちゃんはねぇ……あ、今は船長さんだっけ。昔は冒険者で、ものすごく強かったんだよ〜」


ミネルバは真剣な表情で言葉を重ねた。

「……わたしたちは、あの人に救われたんです。あの地獄みたいな施設から」


エルフィナは目を瞬かせる。

「施設……?」


ミネルバは拳を握りしめ、かすかに震える声で語り始めた。



あの日。

ゾイルは「探索依頼」とだけ伝えられて、その施設に足を踏み入れた。

しかしそこで見たのは、檻に閉じ込められた子供達。


鞭の音が響き、幼い悲鳴が重なっていた。

冷たい石壁には魔法陣が刻まれ、呪具のような装置が並んでいる。


ゾイル(低い声で)

「……探索、だけ? ふざけやがって」


怒りが爆ぜるように、彼女は剣を振るった。

檻を壊し、看守を叩き伏せ、子供達を次々と解放していった。


その最中、一瞬だけ赤髪の女が現れた。

不気味な視線でこちらを見据え――次の瞬間には、霧のように姿を消した。


(あの時のことは……今でも背筋が寒くなる。あの女の正体は、今も分からない……)


ローラ、マーシャ、ミネルバ――そして他の数人の子供達は、その実験の影響で「力」を宿してしまっていた。

だがゾイルは怯むことなく、彼らの手を引いて施設を破壊し尽くした。



マーシャ(思い出すように)

「助けてもらった時ねぇ、もう泣きすぎて声も出なかったよ〜……」


ローラ(拳を握って)

「でも、船長は笑ってさ! “よし、帰るぞ! もう大丈夫だ!” って言ってくれたんだ!」


ミネルバ(眼鏡を押し上げ、まっすぐに)

「……あの瞬間、わたし達にとって船長は“救い”になったんです」


エルフィナ(胸に手を当てながら)

「……それで……あなた達は船に……」


ミネルバが小さくうなずいた。


「ええ。でも、組合に戻った船長は“罪”を着せられました。施設の裏には権力者が絡んでいたんです。子供をさらった犯人にされ、逆に追われる身に……」


エルフィナ(息を呑んで)

「……っ!」


マーシャ(ゆるく微笑みながら)

「だから船長は海に出たの〜。船乗りとして生きることにして、わたしたちと家族になってくれた」


ローラ(胸を張って)

「そう! だからあたい達は、ぜ〜ったい船長を裏切らない! 命を懸けても守るんだ!」



エルフィナはゾイルの背を見つめた。

無造作に髪をかき上げ、兵士達を蹴散らしたあの背中。

その影に、これほどの過去と覚悟があったとは――。


エルフィナ(心の中で)

(……あの方が、伝説の竜殺し……そして……子供達を救った“本物の英雄”……)


胸に熱が込み上げ、言葉を失っていた


ローラは勢いよく胸を張りながら、得意げに口を開いた。

「ちなみにねー、コック長のおばちゃんは船長の相棒でさ! 冒険者のときは “鋼のバール” って呼ばれてたんだよー!」


「えっ……!?」

エルフィナが思わず目を丸くする。


その時だった。

ちょうど後ろの調理場から、コック長のおばちゃんが顔を出した。

手にはお盆。その上には、ほかほかのおにぎりが山盛りに積まれている。


コック長おばちゃん(呆れた顔で)

「あんた達……言っちゃったんかい?」


ローラは悪びれず、舌をちょろっと出した。

「だってー、船長ばらしたじゃん! 兵士に〜」


コック長おばちゃん(額を押さえて)

「あちゃー……」


マーシャはおにぎりを見て、きらきら目を輝かせる。

「わぁ〜! おにぎりだぁ〜♡」


ミネルバは眼鏡を押し上げながら真面目に付け加えた。

「……船長だけでなく、コック長おばちゃんも伝説級……。やはりこの船は普通じゃありません」


エルフィナはぽかんとしたまま二人を見比べ、呟いた。

「……お二人とも、ただ者ではなかったのですわね……」


ゾイル(船長)は鼻を鳴らし、バールを肩に担ぐような仕草をして見せた。

「まったく……こりゃもう隠しとけないねぇ」


コック長おばちゃんはため息をつきながら、おにぎりをひとつ差し出した。

「まぁ、腹が減っちゃ戦もできやしない。まずは食べな」


ローラは胸を張り、ぱぁっと笑顔を広げて自慢げに言った。

「私の自慢の家族で、お母さん達なんだ〜!」


マーシャもふんわりと頷きながら、両手を胸の前で組み込む。

「そうそう、それでね〜、たまにギューってしてもらって、“お母さん”って言うの! そしたらね、疲れとか吹っ飛ぶよ〜」


ミネルバは眼鏡を押し上げ、少し照れたように視線を落とした。

「……そうだねー。私は、一人ずつにしてもらいます。ギューって」


三人の言葉を聞きながら、エルフィナはふと遠い目をした。

(……お母様……)

胸の奥に、懐かしい温もりと同時に、ぽっかりとした寂しさが広がっていく。


その時だった。

背後から、ふわりと力強い腕が彼女を包み込んだ。


女船長ゾイルが、無言でギューと抱きしめていた。

その抱擁は荒波を越えてきた者のたくましさを含みながらも、不思議と母のように優しく、あたたかかった。


エルフィナは驚きに目を瞬かせたが、すぐにその胸に身を委ねた。

心の奥に灯る懐かしさが、失いかけていた勇気を呼び覚ましていく。


(……ああ……わたくし、また立ち上がれる……)


やがて、船長ゾイルの腕からそっと離れたエルフィナは、胸に手を当て、強い決意を込めて呟いた。

「……シリア様、必ず助けますわ」


甲板の上を吹き抜ける潮風は、彼女の言葉を受け止めるかのように力強くなびいていた。



つづく

【外部サイトにも掲載中!】


イラストはこちら(Pixiv)


https://www.pixiv.net/artworks/132898854


アルファポリスにて画像付きで作品を公開しています。

ご興味ある方はぜひこちらもどうぞ!


▼アルファポリス版はこちら

https://www.alphapolis.co.jp/novel/731651129/267980191

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ