故郷──笑顔の先に
王都ルイザの港町に船が到着した。
潮の香りが漂う中、石畳の大通りを、アーシア達一行はお城へ向かって歩を進めていた。
ルイフェルは周囲を見渡しながら、ふと呟く。
「そういえば……我はこの国で召喚されたんだよなー」
アーシアは歩みを止め、少し沈んだ表情でうなずく。
「は……い」
その浮かない顔に気づき、ルイフェルが横目で覗き込む。
「どうした? アーシア? 浮かない顔だな?」
アーシアは視線を落とし、少し言い淀んでから答える。
「……実は心配ごとがありまして。私が拾われた神殿施設からの手紙が途絶えているのです。すぐ近くですから、確かめに行きたいと思って……」
ルイフェルは一瞬黙り、すぐに笑顔を見せた。
「じゃ、寄ろうじゃないか。そこに」
その言葉に、アーシアははっと顔を上げた。
すると、隣で歩いていたエルフィナが口を開いた。
「アーシア様、それならわたくし達が王に挨拶に参りますので、ルイフェル様とご一緒にそちらへ行ってくださいませ。こちらは問題ありませんから」
アーシアは心配そうに眉を寄せる。
「しかし……私がいた方がお話が進むのでは?」
エルフィナはにっこりと笑い、手を振った。
「大丈夫ですわ。込み入った話はまた後にすればいいですし、どんなお方の王か、今日は見ておきたいので。気にせず行ってきてくださいませ」
その言葉にアーシアの顔に少し明るさが戻る。
「……ありがとうございます! それじゃ、ルイフェル様。行きましょう♡」
笑顔で振り返ったアーシアに、ルイフェルも口元を緩めて答えた。
「ああっ、了解だ!」
二人の背を見送りながら、エルフィナはそっと呟いた。
「アーシア様……どうか、良い知らせでありますように」
一方、船での留守番組
ミャーリ
「いつも留守番にゃ〜」
天使ちゃん
「そうですねぇ〜……心配ですぅ」
ノーム(船の椅子に立てかけられた杖から声が響く)
「何かあれば念話があるしのぉ。転送もすぐじゃから、呼ばれんということは大丈夫なんじゃろ」
ひめな(無表情で)
「……つまらない」
海ちゃん(ぱっと笑顔を見せ、ずれた丸メガネを直した)
淡い水色の長い髪を揺らし、巫女風の装束にゲームのキャラ缶バッジをいくつもつけている。
「じゃあ! ゲームでもしよっか! みんなで!!」
その頃──
アーシアとルイフェルは町外れへと歩いていた。
アーシアは足取り軽く、弾んだ声でルイフェルに語りかけていた。
その顔には笑顔が浮かび、まるで幼子に戻ったかのように楽しげだ。
アーシア
「もうすぐです!ルイフェル様〜。久しぶりに帰ってきました♪ ふふっ」
ルイフェル(優しく微笑んで)
「そうかぁ〜」
アーシアは懐かしい景色を指さしては、次々に思い出を語る。
アーシア
「小さい頃はよくここの路地を施設の子達と走ったんですよ〜」
「……あっ、あそこ! ルイフェル様!!」
「小さい小川……夏はみんなで水遊びしたんです!!!」
「びしょびしょになって帰ったら、シスターに怒られたんですよー! ふふっ」
その姿は眩しいほどの笑顔で、ルイフェルも自然と頬を緩めた。
彼女の声、笑顔、弾む言葉。全てが愛おしく思えて、胸の奥が温かくなっていく。
ルイフェル(心の中で)
(……やっぱり、笑ってるアーシアが一番いい)
やがて、アーシアは胸を高鳴らせて指を伸ばした。
アーシア
「あの角を曲がれば……もう施設です!」
その声には、再会への期待が溢れていた。
ルイフェルは頷き、彼女の隣に並ぶ。
──そして角を曲がった瞬間。
アーシアの瞳から光が消えた。
笑顔は凍りつき、次の言葉は喉に貼りついたように出てこない。
目の前に広がっていたのは、黒く焼け焦げた瓦礫の山だった。
壁も屋根もなく、かつての面影などどこにもない。
焦げた木の匂いがまだ残っていて、風に灰が舞っていた。
アーシアは、膝から力が抜け……その場に崩れ落ちた。
アーシア(震える声で)
「……う、そ……」
胸を押さえて嗚咽を漏らす彼女の肩に、ルイフェルはそっと手を添えた。
金色の瞳が怒りに光るよりも先に──彼女はただ、アーシアの背を優しくさすり続けた。
つづく
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イラストはこちら(Pixiv)
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