プロローグ 絶望の街
わぁぁぁ~……
みんながその舞台に魅了され、そして虜になる
この世界に生きる希望はない。意味もない。
だからこそ縋りたい。愛したい。このサーカス《ばしょ》に
私も魅了された1人なのだから
◇
灰色の雲が空を覆い、街には太陽の光すら届かない
崩れかけたビルの谷間、泥にまみれた舗道を、誰ともなく人々が足早に歩いていく
誰もが下を向き、口を閉ざし、互いに目を合わせようともしない
『近いうちに希望の粛清を与えよう』
神の使いを名乗る者から100年ほど前にそう告げられたという…
しかし、10年前
『希望の粛清?なんだそれ、低俗なお前らに希望など与えるわけは無かろう。お前らにあるのは終焉のみだ』
100年ほど前に来た神の使いを名乗る者とは別の神の使いがそう告げられ、それを希望としていた街の者は絶望した
それ以来、この街には「希望」という言葉が消えた
人々はただ、与えられた終焉を受け入れるだけの日々を生きている
子どもたちでさえ、未来を語ることはなく、老いた者はただ静かに、今日が最後の日であるかのように目を閉じる
少女は、そんな街の片隅で力無く、理由なく歩いている
かつては亡き母に「いつかきっと、世界は変わる」と言われたこともあった
でも今は、その言葉すら嘘に思える
(どうして、神様は私たちに終わりしか与えてくれないの?どうして、希望を持つことが罪みたいになったの?)
誰も答えてはくれない
すれ違う大人たちも、同じように心を閉ざしている
たまに聞こえるのは、誰かがため息をつく音だけ
ふと、遠くから音楽が聞こえてきた
それは、どこか懐かしく、どこか哀しくだけどどことなく楽しそうな旋律
少女は顔を上げる
その音に誘われるように、足を動かし始めた
(サーカス…)
街の外れに建てられた、色褪せたテント
そこだけは、まだ誰かが夢を見ていい、見れる場所だった
現実を忘れられる、ほんのひとときだけの魔法の場所
「……どうせ、何も変わらない。でも……」
少女は小さく呟きながら、サーカスの灯りへと歩き出した
絶望しかない世界で、ただ一つだけ残された“何か”を求めて――
彼女の心に、ほんのわずかに、かすかな期待が灯る
その夜、サーカスの舞台は、今回も大量の観客を迎え入れる
まるで、その場所に一縷の望み、希望を抱くように…
絶望の街に、静かに、そして確かに、物語が始まろうとしていた