最終話:幸せな日々
「……さあ、行こうか、ジュリエット」
「はい」
差し出されたクロード様の手を静かに握る。
優しい微笑みを見ると、いよいよこの日が来たのだなと実感した。
一緒にゆっくりと歩き門の前に立つと、ひとりでに開かれる。
そして、目の前には……。
「「おめでとうございまーす!!」」
一面に広がる緑豊かな土地と、拍手してくれるたくさんの人と精霊たち。
空には可愛い妖精が飛び交い、光の粉を撒いて祝福してくれる。
世界樹が復活してからすぐに、精霊も妖精も力を取り戻したのだ。
セシルさんも角がなくなり、人間みたいな見た目になっていた。
今日は、クロード様との結婚式。
シュナイダー王国の誤解も解けて、正式な和平が結ばれた。
私たちを祝うように植物たちは陽光に輝き、お城も優しい雰囲気に一変した。
ちなみに、メラニーや私の家族は参列していない。
どうやら、宮殿の大事な植物を枯らしてしまったそうだ。
私に対する不当な仕打ちも罪に問われ、今はみな監獄行きとなった……という文書が以前届いた。
お城前の広場の奥には十字架と祭壇があり、なんとシュナイダー王と王妃、第一王子に第二王子まで参列していた。
王様は結婚の誓いを立ててくれるとのことで、大変に恐縮しきりだった。
「ジュリエット様、クロード様、こちらへどうぞ」
「ああ」
「ありがとうございます、セシルさん」
セシルさんの案内で、私たちは祭壇の前に歩く。
王様が笑顔で迎え入れてくれた。
「ジュリエット嬢、クロード卿。本日は本当におめでとう。これほどめでたいことはない」
「全てはジュリエットのおかげです、シュナイダー王」
クロード様と王様は笑顔を交わす。
世界樹が復活してすぐに、シュナイダー王国と精霊領(クロード様の領地。魔王領から名称が変わった)は正式な国交が結ばれた。
これからは、互いに有益な関係を築こうと決まったのだ。
「では、両者誓いのキスを……」
王様の言葉を聞き、徐々に静けさが戻る。
――そうか……これから初めてのキスをするんだ。
思うだけでドキドキして顔が熱くなるのを感じた。
そっと隣の旦那様を見ると……ほっぺたが赤くなっている。
クロード様は深呼吸し、真剣な目で私を見てくれた。
「ジュリエット……愛している」
「私もです……クロード様」
チュッ……と唇同士が触れ合う。
最初は、どうなることかと思った新しい人生。
でも……。
――待っていたのは幸せいっぱいの毎日だった。