へび神様と推し神様
神の国、元旦。
大神様のおやしきに、神様たちが新年のご挨拶にきています。
大神様のとなりには、今年の主役の干支。
へび神様が、とぐろを巻いて鎌首をもたげて座っています。
「きゃあっ」
「ひぃー!」
女神様などは悲鳴をあげながら、大きなへび神様を前にこわごわ挨拶しています。
「こわがることはありませんよ」
年老いた神様などは、平気そうに挨拶しています。
女神様の様子にちょっと傷ついていたへび神様は、うれしそうに赤い舌をチロチロだしておじぎしました。
「へび神様、へびのように長く生きられるように、ご利益をお願いいたします」
「どうぞ、私の頭を撫でてください」
へび神様が頭をかたむけると、年老いた神様はありがたそうに撫でていきます。
「わ、私、今年はお金持ちになりたいですわ。へび神様、ご、ご利益をお願いいたします」
女神様も勇気をだして、へび神様におじぎしました。
「どうぞ、私の体を撫でてみてください」
へび神様は白い体を光らせて、女神様が撫でおわるまでこわがらせないように、じっとしていてあげました。
へび神様を拝んだり撫でたりすると、長寿になる、お金持ちになる、一回り大きく成長できる、執念深くなれる、爬虫類がこわくなくなる、へびのように細くなれるなど、ご利益が沢山あります。
今日の宴のお土産には、へび神様の「抜けがら」があります。へび神様の抜けがらを財布にいれておくと、お金に恵まれるのです。
大神様がくださる、お年玉のポチ袋に一緒に入っています。神様たちはこれをいただくのも楽しみです。
そんな見た目はこわいけれど、ありがたいへび神様に最後に挨拶にきたのは推し神様です。
推し神様に拝むと人気者になれたり流行を生み出せたりします。
また、推し神様に神推しされると未来永劫残るほどの人気者や流行になれるのです。
大変ありがたい推し神様から、ご利益をさずかりたいと、これを読んでいる皆さんだけでなく、へび神様もいつも願っていました。
「へび神様、明けましておめでとうございます」
「推し神様、明けましておめでとうございます」
二神は、にこやかに挨拶をかわしました。
「へび神様、今年もよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします」
おじぎをかえしてから、へび神様はおずおずと切り出しました。
「推し神様。今年はなにとぞ、私を神推ししていただけませんか?」
へび神様は、去年の干支であり主役だった龍神様を思い出していました。
去年の宴の場で、推し神様に神推ししてもらえた龍神様には大変なご利益がありました。神の国で龍神様そっくりの岩が発見されて神様たちが見物の行列を作ったのです。へび神様も見物にいって、いいなぁと心からうらやましく思っていました。
「龍神様のような、ご利益がいただければ……私でなくてもいいのです。へびが人気になれれば……ですが、へびでは龍神様のようにはいきませんよね」
へび神様は悲しそうに、うつむきました。
女神様たちが自分をこわがっていた様子を思い出したからです。
「行列ができるほどの人気者になるなんて無理ですよね。どうしてもなりたいのに……」
泣き出しそうにして暗くうつむいてしまった、へび神様のほうへ、推し神様は力強くふみだしました。
「弱気はいけません。へび神様でも人気者になれますよ」
「本当ですか?」
顔をあげたへび神様に推し神様は、ほほえみました。
「もちろんですよ。思い出してみてください、今まで私が、へび神様を神推したことで神の世や人の世に起きた出来事を」
推し神様は自分を熱心に拝んでくれるへび神様を、神推ししたことが何度もありました。
そのたびに、
「へびの抜けがらを財布に入れることが未来永劫定番のご利益となりましたし、白いへびを見ると縁起がいいとか金色のへびが金運によいとか、へびが未来永劫続く人気者となったではありませんか」
「そうでしたね」
へび神様の顔に笑顔がひろがりました。
「そうじゃ。へび神よ、後ろ向きな気持ちでいてはいけない。前向きな気持ちで推し神に拝みなさい」
大神様も、へび神様をはげましました。
もし、へび神様が後ろ向きなまま推し神様に拝んだから……
へび神様のこわい部分が流行してしまうからです。
へびにおどろかされることが増えたり、執念深さが悪いほうに働いたり、毒へびが大量発生したりです。
へび神様も邪神として、こわい人たちに人気になってしまうかもしれません。
推し神様も気をつけなければなりません。
気まぐれに神推しすれば、厄介なことが未来永劫流行してしまうからです。
たとえば、ぼっち神様という孤独を司る神様を気まぐれに神推ししたときなどは、人の世に「ぼっち」と呼ばれる一人ぼっちの人が流行してしまい未来永劫続くものとなってしまいました。
一人が好きな人にはありがたいご利益だったかもしれませんが。
「へび神も推し神も、あたたかい気持ちで拝みなさい」
大神様のお言葉に、二神は心を落ち着けました。
「私は前向きな、あたたかい気持ちになれました。推し神様に拝んでも悪いことは流行らないでしょう」
へび神様がおだやかにいうと、
「私もいつでも、へび神様を神推しできる心がととのいました。かならずや、よいことがあるでしょう」
推し神様もおだやかにいって、二神はほほえみをかわしました。
「では、へび神よ。推し神に巻きついてみてはどうかね?」
大神様のていあんに、へび神様は喜んでうなずきました。
「推し神様、よろしいでしょうか? 私が巻きついても」
いつも推し神様が神推しするときは、龍神様に巻きついてもらいます。天に登るほどの人気運を司る龍神様の力を借りるためです。
へび神様は龍神様に憧れていました。体の長いのが龍神様と似ているから自分も巻きついてみたい、でも、自分が巻きついても龍神様のようにはいかないとあきらめていました。
そんな悲しみを振り払い、へび神様は願ってみました。
「もちろんです。へび神様が巻きついてくだされば素晴らしい力がみなぎることでしょう」
推し神様がおいでというように手をひろげたので、へび神様はいそいそと動きだしました。
ちらと龍神様を気にすると、にっこりほほえんでいて、喜んでお役目をゆずってくれたのがわかりました。へび神様は安心して巻きついていきます。
へび神様と推し神様の合体の儀がはじまりました。
神様たちは、どんなよいことがあるのかと拝みながら見守っています。
へび神様が推し神様に完全に巻きつくと、白い神々しい光がはなたれました。
神様たちでさえ、眩しさに目をつむったほどです。
「では、へび神様のために神推しの祝詞を唱えましょう」
推し神様は手を会わせて祝詞を唱えはじめました。
こうして始まった巳年は、へび神様にとって忘れられない年になりました。
神の世で、幻のへびといわれるツチノコが発見されたのです。
ツチノコは大人気となり、神様たちが見物の行列をつくりました。おやしきで待っていれば挨拶にきてもらえる大神様でさえ、早く見たくてたまらず行列にならんだほどです。
未来永劫残る記念の年となりました。
へび神様は大変喜んで、ツチノコを自分のおやしきでもてなしました。
人の世でもツチノコが発見されるかもしれませんね。
皆さんにも、へび神様と推し神様のご利益がありますように。