7事故と疑念
事故の表現があります。苦手な方は、気をつけてください。
そのため、町を出るのに半日かかり、地元につくころには夜になっていた。私と島田は、実家に着く頃には疲れ果てていた。
その日の晩ご飯は、島田のお母さんがイタリア料理店を予約してくれていたので、島田家と一緒にとることになった。
島田家とは繋がりが強く、私にとっては本当の親のようだった。挨拶が終わると、昔話に花が咲いた。私がテスト期間中は死んだような顔がしていたとかだ。
1通り昔話が1段落すると、近況の話しになった。私は、新店の開店に初めて立ち会ったこと・仲の良い同僚ができたことを話した。
島田のお母さんが「こうちゃんは仕事どうなの?けい…」まで言うと被せるように島田が、「月夜と同じ場所で働けて嬉よ」といつもの笑顔で言った。
島田のお母さんは少し困惑しているような顔を見せたが、すぐに笑顔に戻った 。食事会は、お母さん達の近況をきいてお開きになった。違和感が残るもののホテルに戻り、その日は眠りについた。次の日は墓参りに行き、祖父母に会いに行った。
こうして、私達の2泊3日の里帰りは終わりを向かえたように思えた。だが、事件はおきた。町に戻る途中の車で談笑をしていると、体を強い衝撃が襲った。隣で血を吐いている島田がいる。数分後、私はようやく状況を理解きた。
どうやら、交通事故に巻きこまれたらしい。私は、隣で、倒れている島田の方に目を向けた。気絶している。数分間、声をかけていると目を覚ました。彼は昔から、体が丈夫らしくピンピンしていた。私達は状況を把握しようと外に出た。
合計3台の衝突事故だった。もうすでに、警察は呼ばれていた。私達は、警察から安否の確認と当時の状況などの質問を何度かされた。その後は、車保険の会社に電話するため風川が席を外れた。私は道路脇の自販機でコーヒーを買った。
道路脇に座っていると、1台の車が猛スピードでこちらに走ってくるのが見えた。そして、私は避けきれず車と衝突した。
こちらに気づいた島田が、ほんのわずか口角を上げこちらに走ってくる、それだけが遠のいていく意識の中で分かった。目を覚ますと、心配そうに私の顔を覗きこむ島田の顔があった。
島田いわく、私は3日間寝ていたらしいのだ。 目が覚めて、3時間もすれば警察の方がお見舞いを持ってきた。島田の顔に少し翳りがさした。しかし、笑顔に戻り挨拶をする。
警察も決まりきった挨拶をし、事故の様子を詳しく聞かれた。犯人は黙秘を貫いており、情報がなく困っていたらしい。
30分くらい話し、「また来る」と言い残し出ていった。私的にはもう来てほしくないが、仕事なので仕方ない。風川も、仕事があると帰ってしまった。
私は、静かになった病室で1人思考を巡らした。島田は、昔から一人で抱え込んでしまうことが多々あった。だが、こんなにも違和感はなかった。
あの時、島田のお母さんは何を言おうとしていたのだろうか。「けい…」の続きの言葉は何だったんだろうか。
警察や刑事だろうか。いや、それはない。
もしそうだったとしてもあれほど警察を毛嫌いしているのだ。それに彼は、私の知るかぎり大学を卒業してすぐに、「ハリス」で働いたのだ。関わるとしたら、成人前になる。そもそも、なぜ5年間放っていたクラスメートにいきなり近づこうとしたのだろうか。どうして、島田と仲良くなったのだろろか。
どうして、あの車は私1人の時に来たのだろうか。ただの偶然か。だか、あの時島田が笑っていたように見えたのは、間違いないはず…
トリップしたと聞いたが、前日に雨など降っていなかった。もしかして、あの車は私を事故に見せかけた殺したかったのだろうか。島田が私に近づいたのはこのためだったのだろうか。考えれば、考えるほど島田と私の絆のどこかにヒビが入る音がする。
思考が負の連鎖に、入りそうな時だった。病室の外から誰が走っている音がした。そして、勢よく扉が開いた。そこにいたのは、かおるだった。かおるは、私の姿を見るなり飛びついてきた。「いぎでて…よがった。」と声をあげて泣いた。私はかおるの背中を泣き止むまで撫でていた。
かおるが、泣き止むとそれを見越したように、草壁と風川が入ってきた。彼らへの疑念はあるものの、同僚と友人がこうしてお見舞に来てくれはの嬉しい。
2人は、「月夜、大丈夫だったか。」と言うのとともにフルーツの盛り合わせをくれたどれも、前に好きな果物として言っていたものだった。
それから、私と島田が里帰り中に三人で遊園地に行ったこと。海に行ったこと。などの楽しい思い出を話してくれた。どの話をするときも、3人共表情豊かでどんなに楽しかったのかが伝わってくる。三人の話が一段落したとき、私は「ハリス」のことを聞いた。
すると、三人の顔から笑顔がなくなった。