6 幼い頃の記憶
私は、背筋に悪寒が走る。早く、早く、ここから逃げなければならないと。頭が、アラームを流す。が、この男の壊れている部分をもっと知りたい、もっと見たいと、感じてしまった。
私が、呆然と立っていると風川は、かおるに視線を向ける。かおるは、頷いた。彼女は、操られているかのように、無機質に話し始めた。「私の両親は、5歳の頃、政府に殺された。その理由は、今だにわからない。10歳までは、唯一の身内の兄と生きた。だけど、その兄も政府の理不尽な拷問で殺された。」
今まで、変化のなかったかおるの表情が変わる。今まで、見たことのない笑顔と、何かに酔心しきった様子だ。その何かは、すぐに分かった。かおるは、嬉しそうに、声を弾ませて、言った。
「私が、絶望に暮れていた時、風川様と出逢った。風川様は、全てを失った私に全てを与えてくださった。」かおるは、私と目線を絡ませた。私は、その目線を受け取る。
再びかおるが口を開く。「そして、風川様に拾われた私は、クローバーに加入したの」私は、その言葉に耳を疑った。クローバー、それは、この国のものであれば誰もが知っている組織だ。
彼らは、国へのデモ活動をしている。はじめは、数十人だったが、次第に勢力を増していき今では、数百人にもなる。
その活動は、時に激しく、人を殺すこともある。私の顔は、今血の気がないだろう。そんな私を横目に、かおるは話しを続ける。
「それからは風川様は親のように兄のように・友のように接っしてくれた。全てが風川様になった。思い出も、家族も、恋人も,友達も、私の全てになってくださった。」かおるは今まで見たことのない笑いを浮かべていた。
その顔にあるのは「幸福」だけだった。その時、夜の9時を知らせるチャイムが鳴った。風川は、かおるに何か言うとその場を去っていった。かおるも後に続く。私は、遠回りになるが、反対方面から帰ることにした。
次の日、億劫とした気持ちで私は会社にいった。だが、かおるは何事もなかったかのように振る舞った。私も悪い夢かと思った。いや、そう願った。
それからは、あの日のことが嘘のようにいつも通りの日常に戻った。お客さんと喋って、新人の教育、買い物、と目まぐるしい毎日を送った。人が倒れたころの記憶がおぼろけになった頃、再び事件がおきた。幼ない記憶を彷彿とさせる事件が・・・
その事件は、私が幼いころにおきた。事件の詳細は詳しく知らないが、目を閉じれば昨日のことのように記憶が蘇る。
私達家族・月夜家は初の海外旅行のハワイに行く定だった。両親が忙しく、なかなか会えなかった頃の旅行なので、私は胸を踊らしていた。
だが、ハワイに着く直前で飛行機同士の衝突事故がおこった。飛行機は大破し、私を除いた乗客は死亡した。私も、片腕と片目を失った。
両親は目の前で失った。そのショックで5年間近く引きこもり、学校もろくに行かず人との関わりを絶っていた。
そんな私を救い出してくれたのは、島田だ。
島田とは、中学の同級生だ。私が不登校になっていると、毎日のように課題や手紙を届けてくれた。
一度、お礼を伝えたくて取りに行った。彼は意外にも喋りやすく、趣味が同じ読書で仲良くなった。放課後は2・3時間私の部屋で喋べるようになっていた。
ある日彼が私にこう言ったのだ。「学校来てみないか。」初めは拒否したが、諦める様子がなかったので、一度仕方なく行った。
意外にも楽しくそれからは毎日のように行った。高校は、成績が悪くどこも受からず今の「ハリス」で働くことにした。そもからは、目まじるしい毎日がはじまった。今まで、お世話になっていた祖父母の家を出て、1人暮らしを始めた。そして、今の仕事になった。
島田は私のことを妹のように可愛がってくれていた。私のことが心配になってか、大学を卒業した後私と同じ、「ハリス」に就職した。彼は優秀な為、数か月一緒に働くと本社への転勤になった。彼が転勤して数か月経つと支店にまで彼の噂はとどいた。
そして、今私と島田は地元に戻ってきている。店から長期休暇をもらったからだ。長期休暇の間は、町から出ることを許された。だが、荷物検査に身体チェックをされ、挙げ句の果てには、この町で起きたことを一切話さないと契約書を書かされた。
そのため、町を出るのに半日かかり、地元につくころには夜になっていた。私と島田は、実家に着く頃には疲れ果てていた。
前話の投稿1日間違っていました。すいません