志村、転移
冷蔵庫に、食べ物がない。コンビニでなにか買って小腹を満たそう。夜食はカラダに悪いとわかっていても、やめられないんだよなぁ。腹が減っては戦は出来ぬ。ダイエット中だから、低カロリーのものにするか。
「ちょっと、すみませーん、志村さん、起きてくださーい??」
眠い。もう少し寝たい。
「あぁ、だめだめだめだめ、起きてください」
そんなの個人の自由だしいくら寝てもいいじゃないか…ていうか誰だ?
疑問が浮かぶが睡魔には抗えない。仕方ない、仕方ない…
すると、声主は本格的に俺を起こしにきた。
「ザッブーンッッッッッ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ」
水をぶっかけられたような衝撃に俺は絶叫した。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。あなたは、一度死にました。」
「…へ?」
「今頃、あなたの葬式が行われているはずです」
本当に水をぶっかけてるじゃねーか…ていうか水をぶっかけて起こすなんて古典的すぎだろ。温水なのはうれしかったけれども。葬式がなんだって?それよりもここはどこだ?
白いマッサージチェアのようなものが等間隔に、見渡す限り並んでおり、白い服を着た老若男女がそこに座っている。自分の寝間着姿が白いつるつるの床に反射して映る。床の冷たさがこれが現実であることを知らしめる。
「すみません、ここは?」
「ここは、俗にいう天国です」
「はあ…」
思ってた天国と違う。「ごくらく ごくらく」といって温泉につかる祖父の姿を思い出す。
俺、若くして死んだんだ。まあ、今死を悔やんでも仕方ない。状況を整理しよう。目の前のいかにも女神のような風貌の20代前半の美女は誰だろうか。なんというか…エロい。
「…えーっと、すみませんどちら様ですか?」
「申し遅れました、私は女神カリスです。死後の案内などを請け負っています。」
嬉しそうに彼女は言った。いったいどうして死んでしまったのだろうか。持病があったわけでもない。たしか俺は深夜、小腹がすいてコンビニで買い物をした。食べ歩きながら家に帰ろうとして、コンビニの前の信号を待っていたところで記憶が途切れている。まさか、交通事故にあって死んでしまっ…
「いいえ、あなたの死因はバナナです。交通事故になる寸前でその車はあなたを避けました。その時に驚いたショックであなたはバナナを喉に詰まらせ、窒息死したのです。お悔やみ申し上げます。」
志村良平17歳は、まさかのバナナに殺されたのであった。
いやいや、冗談でしょ。まだ若い俺が、のどに詰まりやすいランキング9位のバナナで溺れるとは。アメリカンジョークか何かか?
いや、待てよ。勘のいい俺は察した。もしや、これって異世界転移とかに入る流れだよね。
「はい、そうです」
やっぱり思考が読まれてる。まずい、さっき考えてたことばれてる。
「おめでとうございます。あなたは異世界で新しい人生を始めるチャンスを得ました。あなたは次の人生に何を望みますか。」
キターーー!!!これだよこれ。この展開を待ってたんだよ。オタクなら一度は妄想するやつ!そうだな…
…
…
…
じっくり考えていると、女神カリスの頭上に残り60秒というカウンターが作動した。志村がここにきて、すでに2時間が経とうとしていた。女神カリスは暇ではないのだ。
いや、時間制限あるの聞いてないって。やばい、はやく決めないと自分の存在が消えてしまいそうな気がする。もう、あれしかない。
「…俺は、チート無双をしたいです。もちろん異世界転移のほうで。」
なんだかんだこれなんだよなぁ。今後無自覚にチート披露しちゃうんだよなぁ。そしたらこう言ってやるんだ、「俺、また何かやっちゃいました^^;」って。
自身の欲望を吐露した志村の顔は、もはや死んでしまったことの後悔すら感じさせない漢の顔だった。そんな志村を白い目で見てこう言った。
「承りました」
あれ、なんか白い目で見られてね?ちょっと欲出しすぎたか?本当にチートスキルとかもらえるんだよね?金の斧、銀の斧の話みたいに欲出したら、没収とかじゃないよね?ハハハ…
おーい、聞こえてるんだろ俺の心の声。なんとか言ったらどうだ。頼むなんとか言ってください…
よし、とりあえず褒めよう
「…カリスさん、月がきれいですね」
そう言った瞬間、無事志村は異世界に転移した。
「それではごゆっくり~」
バナナはいいぞ。罪悪感無く腹を満たせる。バナナのネチョネチョした食感が口の中に広がり、ドロドロとしたバナナの甘さとバナナの白い筋が絡みついてファンファーレを奏でている。こういうのでいいんだよ。週末のご褒美にもってk