↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/30

第四章 抗争 (6)

「ん?」電話が済んだのに気がついたらしく、拓人は漫画を置いて上半身を起こした。

「どうしたの? 新しい仕事が決まったんじゃないの? その割にはやけに……不機嫌そうだね」


 私は返事をせず、拓人の隣に腰を下ろした。


「秋実?」


「仕事、決まるかもしれない」私は素っ気なく言った。

「〈柿沼いさおのスーパースロウライフ〉。けっこう有名な番組で、その番組のアシスタントとして私を推薦してくれるんだって」


「おお! 知ってる、知ってる!」拓人はぽんと手を叩いた。

「職場で、部長がよく聞いてるよ。へー、あれに秋実が出るのかー。すごいじゃん」


「うん、まあそれは光栄なんだけどね」

「ん?」


 私は真っ直ぐに拓人を見つめた。拓人も不思議そうに私を見つめている。そのまま、しばしのときが流れる。


 私の言わんとすることを読みとってほしい。私から言わせないでほしい。いつだってそうじゃないか。いつも私ばっかり。確かに、昔は男勝りな性格だったけど、本当は誰よりも女々しい奴なんだ、私は。


 優しい拓人は好きだけど、罰ゲームでの私の告白を受けたときみたいに、堂々とした拓人をもう一度見てみたい。


 先に目をそらしたのは、やはり拓人だった。彼は茶化すように笑いながらこう言った。

「引き受ければいいじゃん。別に問題はないでしょ」


「引き受けるよ。引き受けるけど……」私は溜息をつきかけるが、そこをぐっとこらえて続けた。

「新しい仕事のオファーが、もしこなかったとしたらどうするの。私、ただのフリーターに逆戻りだよ」


「なかったらって……あるんだし」


 拓人は頭をぽりぽりとかきながら、言葉を濁した。その態度に、いよいよ私はしびれをきらす。

「拓人。私たちの将来について、どう考えてるの?」


「将来について?」


 拓人はごくりとつばを呑み込んだ。彼しか使わない灰皿に、ちょんちょんと煙草の灰を落とす。かと思いきや、そのまま火を揉み消すのだった。


「そう」と頷くはいいが、私は早くも前言撤回したくなっていた。


 言ってしまった。ついに口にだしてしまった。もう二度と今までの関係には戻れないかもしれないのに。


 あまりの恐怖に、泣きだしそうになってしまう。自分で訊ねておいて、拓人の返答を聞くのが怖くて仕方がない。


 もう、最後まで言ってしまおうか。プロポーズまでしてしまったほうが、あれこれと悩まなくて済むような気がするし、恐怖心も紛れるような気がする。


 えーい、やけくそだ!


「ねえ、拓人。私と……」

「ちょっと待った!」


 私はぴたっと言葉をとめた。目を丸めて拓人を見ると、彼は私に手の平を向けていた。


「は、はい?」


「一つだけ言っておく」体勢を変えずに、拓人は続ける。

「新しい仕事、引き受けてくれ。俺たちの将来については、そのあとでゆっくり話そう」


「は?」私は眉をひそめた。

「あ、あとでって……帯番組の仕事が始まっちゃったら、ゆっくりできないし」


「でも、待って」有無を言わさぬ拓人の口調。顔も真剣そのものだ。

「そういう話は、まだできない。ちょっと事情があってさ」


 私は、ウエスタンラリアットをもろに食らったかのような、重く深いショックを覚えた。


 事情!? 事情って何よ!


 嘘だ。そんなの嘘に決まってる。拓人は、私たちのこれからについて、これっぽっちも考えていない。今までと同じなんだ。ああだこうだとはぐらかして、問題を先送りにしたいだけなんだ。


「秋実?」


 不安げな拓人の呼びかけを無視し、私はケータイの画面を開いた。


「ああ、あきちゃん。意外と早かったねえ」

「お手数かけました。あのう、お仕事、是非やらせてください」


「うん、分かったあ。ところで……」野波さんは少しだけ言いよどんだ。

「なんかあきちゃん、えらく鼻声になってるけど、風邪でも引いた?」


 ああ、またしても泣いてしまっている。



 第四章 抗争 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。