第四章 抗争 (4)
【ON AIR】
はい。今、流れておりますのは、ジャニス・イアンの「十七歳の頃」だそうです。
ああ、寂しいなー。もうエンディングかー。
えー。バレンタイン企画の当選は、永川市のラジオネーム・てこたんくんでーす。私の手作りチョコレート送るから、楽しみにしててねー。14日当日に届くかどうか、分からないけどね。あはは。
あ、そうだそうだ。3日は節分でしたねー。日本人ならバレンタインより節分をとり上げなきゃ。みなさん、節分をエンジョイしましたかー。私もバイト先の店長に豆さんをがんがんぶつけてやりましたよー。ラジオが終わる腹いせだー! えい! えい! って。あはは。
あのう、恵方巻って知ってますか? ある方角に向かい太巻きを丸かじりして、そのまま食べきると今年一年ハッピーになるのだそうです。私も挑戦しましたよー。でもさー。今年は西南西に向かって食べなきゃなんないんですけど、西南西っていったいどっちなのよ! 風水も気にしたことないから分からんよ! もう、適当にくるくる回りながら食べました。
……さて。
確認したところ、〈ホッとスイーとタイム〉の放送はあと四回だそうです。なんか、切ないですねー。私がアシスタントやってた前身番組は十年も続いた長寿番組なんですけど、私がパーソナリティになった途端、終了してしまうとは。なんてお詫びすればいいか分かりません。
ええ、でも前向きにとらえましょう。これを転機にしなくちゃね。この番組とはお別れですが、リスナーのみなさんとは何かまた別な形でお会いしたいです。リスナーさんの中には夢を追っている人も多いでしょうし、お互いその夢を叶えてから再会したいですね。
夢? 私の夢ってなんだろう。
高校時代は一瞬だけ教師に憧れたかな。でも、そのために何かしたっていうわけじゃないし。ADを始めた頃は先輩の真鍋さんみたいにばりばり仕事ができる人になりたいなって思った。ただ、それもまた然り。気がついたら出演者側になってたし。
アシスタント時代は私も一人立ちして、自分の番組持ったりしたいなって思ってたな。あれ? じゃあ、叶ってるじゃん。あはは。
でも、叶ったのかな、これって。夢って空しいな。叶っちゃったら、そこで終わりか。
はいはいはい! テンション上げていきましょう! 私だっつーの!
最後に、お便りも読んじゃおうかな。青鹿市、ラジオネーム・スーちゃん。
『〈ホッとスイーとタイム〉の突然の終了、はっきりいってショックです。特に〈アッキーの恋の軌跡〉のコーナーは毎週楽しみにしていたので、とても残念です』
そうかー。ありがとうねー。
『私も今は高校二年生で、二年間つき合っている彼氏がいます。私はその子のことが大好きなのですが、お姉ちゃんは(高校生の恋なんて、ままごとみたいなもの。運命の人と出会うのは二十五を過ぎてから)だなんて言うんです。お姉ちゃんに(アッキーと彼氏さんのような関係の人たちだっている)って反論すると、(それは二人とも精神年齢が低いだけ)だなんて鼻で笑うのです。ひどいと思いませんか』
うう、ひど過ぎる。
『私はアッキーたちをお手本に、絶対に幸せになってみせます! だからラジオが終わっても、引き続き彼氏さんと仲よくやってくださいね』
うーん、嬉しいねー。幸せになってほしいねー。
まあ二十五まで生きて、お姉ちゃんの言わんとすることも分からんでもないですよ。私も今まで何度も、「この人でよかったのかな」って頭を悩ませてきましたもん。実は最近もそう。漠然とした不安というか、ラジオが終わるって聞かされてからは余計にそんな感情を抱くことが多くなってきました。
だけど、スーちゃんに励まされた。スーちゃんたちのためにも、彼と幸せにならなきゃいけませんね。よし、頑張ろう。
さて――。
ラジオも残すところ、あと四回です。まあ、カウントダウンは始まっちゃったけど、今までどおり楽しくやっていけたらいいね。
おっと、時間がない! おやーすみー。さよーならー。