第三章 悩める人 (2)
【ON AIR】
もしもし? 夜分遅くすみません。クローバーFMの(ホッとスイーとタイム)、パーソナリティのアッキーでーす。ミサちゃんですかー?
「そ、そ、そうですけど?」
起きててよかったー。今、何をしてるんですか?
「家でテレビを観てます」
ですよねー。土曜日の二十三時に早々と眠る女子大生はいませんよねー。
「はあ。あのう……、どなたでしょうか」
いや、だから〈ホッとスイーとタイム〉パーソナリティのアッキーです。えーっと、〈ホッとスイーとタイム〉っていうラジオなんですけど、お聞きになったことはありませんかね。
「はあ、ちょっと、ないですね」
そうですか……はあ。いやいや、私が凹んでどうする! あはは! あのですねえ。その番組の中で〈アッキーの当たって砕けろ〉というコーナーがありまして、リスナーの方が電話で直接愛の告白をするといった主旨のものなんですね。実は今回、ミサさんに告白したいという男性とお電話が繋がっておりまして……
「え!? だ、誰ですか?」
心当たりはありますか。えへへ。
「えー、ひ、ひょっとしてスザキさんですか?」
ぶー。違います。
「じ、じゃあまさか、ツグタニさん?」
……違いますね。
「えー? 他に親しい男性とかいないと思うんですけど、あの人は彼女いるしなー」
ま、まあ。あんまりもったいぶるのもあれなんで、本人に登場していただきましょう。ミヤガワくん、思いの丈をぶつけちゃいなさい!
「あ、もしもし。ミサちゃん?」
「え? 誰ですか?」
「ミヤガワです。ダンスサークルで一度だけペアを組んだ」
「ああ……」
い、意外な相手だったかな? ミサちゃん、ミヤガワくん分かりますよね。
「はい。顔はちょっと出てこないんですけど、ちゃんと覚えています」
「ははは……」
ははは。とにかく、ミヤガワくん。ミサちゃんは覚えていてくれたんだから、今こそ君の熱い想いを彼女に届けるんだ。
「は、はい。あのう、ミサちゃん」
「はい」
「ダンスでペアを組んだとき、ステップでミスしてばかりの僕を、君は、『慌てないでいいよ』と優しく元気づけてくれましたね。あのときの君の優しい笑顔が忘れられず、自分でも気がつかないうちに恋に落ちてしまいました。あまり目立たない僕だけど、君を想う気持ちだけは誰にも負けないつもりです。どうか、僕とつき合ってください」
さあ! ミサちゃんの返事やいかにー!
「ええ、そう言われても……ちょっと今は勉強に専念したいというか、あまり彼氏を作る気にはなれないっていうのが本音で」
「そうですか……」
まあでも、友達としてならいいじゃない! その勉強もいつかは落ちつくんだし、このチャンスを逃して、あとあと後悔しちゃうかもしれないよー。
「うーん。じゃあ、まずは友達から……」
やったー! カップル成立でーす! よかったねー、ミヤガワくん!
「もう、マジで泣きそうです」
ミサちゃん。ミヤガワくんはちょっと奥手な男の子だから、ミサちゃんがぐいぐい引っ張ってあげてね。来月はバレンタインデーもあるし、チョコレートでもプレゼントしてあげたら?
「か、考えておきます」
それじゃあ、ハッピーな二人にこの曲をお届けしましょう!
ドリームズカムトゥルーの(うれしいたのしい大好き)!