成功と失敗
悔しさに拳を握り締めた俺はあることに気が付いた。
「姉さん。今日上げるはずだった花火の仕掛けはまだ残ってる?」
「えっ? 残ってると思うけど、花火なんて今は……。爪、あんたまさか……」
途中までは焦りが混ざった声だったが、俺の意図を悟ったらしく、姉さんの顔から強張り抜けて、いつもの柔らかな表情に戻ると俺を見て楽しそうに笑った。
「うん。きっと、姉さんが考えてる通りだよ」
「もう、あなたって天才!」
姉さんは満面の笑みで俺に近付いてくると、両手で乱暴に髪を撫でた。
「そんなことをしている場合じゃないよ。早く行こう!」
「そうね! 急ぎましょう」
姉さんは髪を撫でるのを止めると、真顔になって俺を見つめて大きく頷いた。
俺たちは追い掛けてくるリザードマンから逃げるようにして、全力で花火の打ち上げ場に向かって走った。リザードマンが集団で追ってくるのが見えるが、俺たちのほうが早い。
リザードマンより一足先に花火の打ち上げ場所に着くと、仕掛けを見て回った。
「どう? 使えそう?」
「うん。大丈夫。いけるよ!」
「あいつら追いついてきた! 私が足止めするわ。急いで!」
「うん! 気をつけて」
俺たちは声を掛け合うと、二手に分かれて俺は花火の仕掛けに、姉さんはリザードマンの遊撃に向かった。
花火の仕掛けに花火を入れると、導火線を合わせて火を着け、すぐに隣に転がっている星を拾ってすぐに隣の仕掛けに放り込むと、一発目の花火が打ちあがった。
その衝撃に弄られながらも俺は必死で耐えて、二つ目の仕掛けの導火線を合わせると火を着けて、三つ目の花火を拾い上げる。
空には菊と呼ばれる種類の花火が打ちあがっている。こんなときに娯楽で花火を打ち上げるとは誰も思わない。これでみんな戻ってくるだろう。
「よっしゃあぁぁあああああ!」
俺は達成感に得意になってガッツポーズ取って、大声を上げた。
「爪! 後ろ!!」
姉さんの言葉に俺が振り返ると、リザードマンが俺に向けて槍を突き刺してきているところだった。俺はガッツポーズなんか取っていたために動けない。
刺された、そう思った瞬間、俺は誰かに突き飛ばされ、地面に投げ出された。地面に転がりながら振り返ると、空を鮮やかに彩る火の花が、槍に貫かれた姉さんを照らし出した。
「姉さん!」