交流
驚いたが、戦いならまだしも射的では負ける気はしない。俺は再び弾を込めて銃を構えた。
残りは四発、俺が的の小さな砂時計を落とすと、対抗するように牙将は同じくらいのマスコット人形を落とし、俺が少し重くて倒しにくい鏡を倒すと、牙将はなにかの液体が入ったプラスティックのボトルを倒して、ニヤリと笑った。
俺はムキになってクッキーの詰め合わせを倒すと、牙将も煎餅の入った缶を倒した。
最後の一発を使って最初の標的だったぬいぐるみを撃つと、牙将もやはり同じものを狙ってきて、二発の弾丸に撃たれたぬいぐるみは倒れて転がり、棚から落ちた。
「二人とも凄い!」
姉さんが駆け寄ってくると、俺と牙将の頭を同時にグリグリと撫でたが、牙将は納得が行かないように目を尖らせて俺を威嚇してくる。余りに凶悪な怒りに満ちた表情に、ここは花を持たせるべきだったかと、俺は引き攣る顔で牙将を見返した。
「おーい、この景品どうするんだ?」
「そんなもん知るか、好きにしろ!」
牙将と一緒に来ていた迅が景品を受け取って問い掛けてくるが、牙将は苛々して怒鳴り返した。俺が落としたものは繭が受け取っていて、ぬいぐるみだけは姉さんが抱いている。
「来い! 次はこいつで勝負だ!」
そういって牙将が連れて行ったのは型抜きだった。五枚やって俺は四枚を見事抜くことができたが、牙将は全滅して、失敗したのを力一杯放り投げた。
一緒にやった繭は五枚全部抜き終え、迅は歪ながらもどうにか二枚抜いていた。
自分が一番できなかったのが気に入らなかったらしく、怒りは最高潮のようだ。
その後もヨーヨー釣りに金魚掬い、カキ氷やたこ焼きの早食いなど幾つも勝負をして、頭がキーンとしたり、二人とも猫舌なだけに涙目になりながらも競い合った。
「なかなかやるじゃねぇか!」
「まぁ、牙将よりも二年も長く生きてるからね」
俺に全勝できなかったのことが悔しいのか、牙将は鬼のような顔で俺を睨んで言ったが、なぜかそれまで感じていた恐怖はなく、負けず嫌いの牙将が可愛く見えていた。
勝敗は五分五分だったが、達成感や悔しさよりも、俺は牙将とこうして過ごすことが楽しかった。もしも獣人でなく普通の兄弟だったら、こんな生活もあったのかも知れない。
そう思ったら、なんだか感慨深いものがあった。
後は花火を見て帰るだけと、誰が言い出したわけでもないが、自然と六人で花火会場に向かっていた、その時だった。
遠くから、父さんからの敵襲を報せる怒号が響き渡った。
「またクソ鰐どもか! 今日こそブッ殺ス!! 行くぞ!!」
牙将が血走った瞳を見開くと、喉の奥から低い唸りを上げた。迅と玖狛が低く返事を返して、三人で父さんの声がしたほうへ向かって歩き出した。
「行っちまえ! 人間」
牙将が俺の横を通り抜けたときに冷たく言い放ったが、それまで拒絶としか取れなかった言葉が、なぜか違う意味に聞こえた。危ないから早く集落を出ろ、と……。