祭り
それから数日間は何事もなく時間が通り過ぎていき、俺の怪我もやっと完治した。
父さんの許しを得て祭りの日までは滞在が許され、俺も祭りの準備を手伝っている。
牙将とはあれ以来は言葉を交わす機会もなく、町であっても無視をされていた。
寂しくはあったが、話してもどうせ怒らせるだけだと思うと、話し掛けるのも憚れる。
祭りを明日に迎えた夜中に、俺は数少ない荷物を纏め終えるとベッドに寝転んでいた。
祭りが終わったら俺はここを出て行く。ホッとしたようであり、牙将に言われた通り、逃げるようで悔しいような、後ろめたいような、そんな複雑な心境だった。
「ふぅ~。してみたかったなぁ。俺も獣人化っていうやつ……」
無意味に吐いた俺の愚痴は、夜の天井に吸い込まれて消えた。
翌日、祭りの会場で、俺は繭と姉さんと待ち合わせて、三人で縁日を回っていた。
三人とも、今日は浴衣に身を包んでいる。姉さんの白地に蝶柄の浴衣姿は凄く綺麗だった。
人間も獣人も喜ぶものは同じのようで、立ち並ぶ屋台には見覚えのあるものばかりが陳列していて少し心が和んだ。去年も祭りは行われていて、俺は来たはずだったが、ここに来たばかりの俺にはそれを楽しむ余裕もなく、ほとんど憶えていない。
実質的には、この集落での最初で最後のお祭りだ。この日のことを心に刻もうと思った。
「お、爪。やるか?」
射的の屋台の前を通ったとき、景品に姉さんの好きなキャラクターのぬいぐるみがあるのを見つけて思わず足を止めた俺に、屋台のおじさんが声を掛けてきた。
「うん。じゃあ一回!」
「あいよ」
屋台のおじさんがコルク銃の弾を、なにかのお菓子の缶の蓋に五つ載せてくれた。
俺はコルク銃を手に取ると弾丸を詰めてぬいぐるみに狙いを定めた。
「ねえさん。あのぬいぐるみとって上げるからね」
俺は撃つ前に一言告げた。こういうのは昔から得意だ。俺は自信満々で言うと引金を引いた。軽い音が響いて弾が飛び出しぬいぐるみへ向かっていく。
取れた、と俺は確信したが、横からコルク玉が飛んできて俺が撃った弾は弾き飛ばされた。
驚いて横を向くと、コルク銃を手に、どうだと言わんばかりに笑みを浮かべて見返してくる牙将の姿があった。
「牙将!」




