決意
「そんな、お父さん! 追放なんて酷いわ!」
重い口調で告げた父さんの言葉に姉さんが立ち上がり、勢い良く机に手を着いて非難の声を上げたが、父さんが睨むと息を飲み込んで怯んだ。
「これからは人間の世界で生きていけ。なぁに、取り敢えずの支度金は出してやる。後は自分で仕事を探してやっていけ。お前ももう十九だ。やれるな?」
最初はいつまで経っても獣人に目覚めない俺に見切りをつけて、この集落にいる資格がないと判断したのだと思ったが、父さんの瞳はどこまでも優しかった。
「父さん……」
俺は驚いて瞳を見開いた。正直、人間の世界に帰れるとは思っていなかった。
「俺の倅と言うだけで、宵子が死んだときに無理やりに連れてきちまった。まずはそれが間違いだった。人間の社会で、毎日時間と仕事に追われて生きていくよりは、ここのほうが楽しくやっていけると思ったんだ。
だが、そいつは俺の思い込みだったようだな。お前には辛い思いをさせちまった。
どうやらあのまま、人間の社会で生きていくほうがお前にはあっていたようだ。
すまなかったな。傷が治ったら荷物を纏めて出て行け」
父さんは、終始口の端を釣り上げたままで優しく告げてくれた。
このまま黙って立ち去るのが本来の姿勢なのだろうが、それだけではダメだと思った。
この処罰は規則や掟のためではない。すべては俺のためのものなのだ。
だから、胸の中にあるものを伝えなければと俺は思った。
「俺は父さんや兄弟に会えて嬉しかったよ。うまくは行かなかったけど、自分は一人じゃないって思うことができた。だから謝らないでよ」
俺は父さんを見返すと、微笑みを浮かべて胸の裡を語った。
「だけど父さんの言う通り、獣人になれない俺にはやっぱりここでの生活は荷が重い。
劣等感に苛まれて自分が嫌になっちゃいそうだ。だから、父さんに従いここを出て行くよ。
逃げるみたいで本当は嫌だけど、ここは俺のいる場所じゃないし、ここに俺の居場所はない。だけどありがとう。みんなに会えて良かったって本気で思うよ」
そこまで言って俺は立ち上がろうとしたが、松葉杖一本じゃあうまく立ち上がれなかった。すると、それを見かねた繭が素早く俺の脇に来て体を支えてくれた。
「ありがとうございました!!」
俺は繭に支えられながら体を折り曲げえると、声を張り上げて言葉にした。
「ばかやろう……」
父さんは涙ぐんだ声で毒付いた。
俺はそのまま繭に肩を借りて、室内に向かって歩き出した。
「爪!」
「瞳!」
部屋へ戻ろうとした俺を悲痛な声で姉さんが呼び止めたが、父さんが鋭い口調で制止した。
集落を出ると決めた俺を姉さんは、引き止めてくれようとしたが、腹を決めた俺の決心が弛むと懸念して父さんが止めたのだ。
「ごめん……」
それが分かったから姉さんの顔を見れずに俯いて、小さくそれだけを返すと繭を促して室内に戻った。




