対話
中庭はそれだけで森を表現している、自然に囲まれた落ち着く場所だ。
様々な植物が植えられ、湖を見立てた池があり、その中心に丸太で作った休憩所がある。
父さんは、ヘビー級のプロボクサーにも負けない巨躯を翻して丸太小屋に行くと、堂々と腰掛けた。一緒に来ていた音羽さんがすぐにお茶の準備を始める。
俺は繭と姉さんに支えられて、父さんの向かいの丸太で作られたベンチに座ると、姉さんは隣に腰掛けたが、繭はベンチの後ろに立った。
父さんが俺を見ているのを感じる。俺は恐ろしくて顔を上げられず俯いた。
「まだいくらも怪我が治ってねぇじゃねぇか。完治してからくればいいものを」
父さんが切り出してきた。やっぱり魔力が弱いと言いたいのだろう。
「あ、これでもかなり回復したんだよ? 帰った次の日は、痛くて眠れなかったくらいだし……。俺も少しは魔力が上がってるのかな?」
鼻で笑われるのも、バカにされるのも覚悟で、少し笑いを含めて言ってみた。
「人間は元々魔力が少ねぇから、少しばかり上がったところでそうは変わらねぇだろう。
どうやらお前は、俺より宵子の血を濃く受け継いだようだな」
軽く一笑されて終わりだと思ったが、父さんは俺の言葉に真面目に答えてくれた。
そして、なにか面白いものでも見るように俺を見ると、にんまりと笑った。
俺の中に、今は亡き母さんに姿を重ねて見ているのかもしれない。
「そうだね。いつまで経っても野性の力に目覚められないし……」
俺は自分の未熟さを呪って、太腿の上に置いた手を握り締めた。
「バカ言ってんじゃねよぇ! 野生の力ってのはお前、おいそれと呼び起こせるモンじゃねぇ。ここに住んでるもんだって獣人になるのは大変だってのに、ここに来てようやく一年
のお前に簡単になられちゃあ、町のもんたちの立場ってもんがねぇだろう?」
自分を責めてる俺の心を見透かすように、父さんは愉快そうに見つめて笑った。
焦る必要なんて全然ない、そう言われている気がして、俺はなんだか泣きたくなった。
「宵子も自分を曲げない女だった。大した力もねぇのに誰が相手でも一歩も引かなくてよぉ、良くケツ持ちをやらされたもんだ」
父さんはその時を懐かしむように遠くを見据えると、少し寂しそうに笑った。
「牙の話を聞いてよぉ、やっぱりお前はあいつの子供なんだと思ったぜ。まぁ、あいつはお前みたいにびーびー泣いたりはしなかったけどな」
そう付け加えると、父さんは俺をからかうように小さく笑いを含めて締め括った。
「うん。母さんは強い人だったよ……」
シングルマザーで俺を育ててくれ、仕事を幾つも掛け持って朝から晩まで働き積め、悪いと思ったことは全力で阻止していつも怪我だらけで、それでもずっと笑っていた母さんを思い出しながら俺は囁いた。
最後は交通事故だった。交差点を歩いていた障害者が、信号無視の車に轢かれそうになったのを、体を張って助けたと言うことだった。
最後に病院で見た母さんの顔は穏やかだった。苦しまなかったことがせめてもの救いだ。
お葬式には大勢が参列をしてくれた。それを見たとき、母さんを凄く誇りに思えた。
みんな泣いていた。俺も大声を上げて泣いた。それで誓ったんだ。
俺も母さんのようになるって……。
俺は母さんに様になれているだろうか?
父さんは俺を見ると穏やかに笑った。




