深夜の森
ある日の深夜、木々が生い深い森の中を、俺は四人の少年と共に疾走していた。
目的は、集落から逃げ出した家族を捕らえて制裁を加えるためだ。
森の中にある小さな一族の集落であり、民も随分と減ってしまった過疎地であるが、それ故に集落から出ることは禁止されていて、出ようとすれば一家全員に制裁が加えられるのだ。
だが、戦闘を生業とし、略奪を繰り返す一族に嫌気を差して、逃げ出すものは後を絶たない。
今日も、平和な生活を求めて集落から逃げ出した親子を追跡していた。
「おい、どうだ! いたか?」
この追跡隊、五人のリーダーであり、族長の子供でもある牙将が恫喝するように、俺たちに質問と言うよりは、確認するように声を張り上げた。
「いや、こっちにはいねぇよ」「ダメだ。こっちにもいない」「いないな」周囲に散って散策をしていた他の三人が口々に答えた。
「爪、てめぇのほうはどうだ?」
爪とは俺の名前だ。ちなみにツメと書いてソウと読む。牙将が俺に向けて詰問してきた。
「こっちにもいないよ」
「チッ! クソ役立たずが! 行くぞ!」
牙将は苛立たしげに吐き捨てると、森の入り口に向けて歩みを始めた。
森から出られたらもう手出しができない。俺たちの種族は人間たちとは相容れない関係であり、もしも見つかったら戦争に発展しかねないからだ。目立ったことはできないのだ。
獣道さえもない険しい森も、俺たちにとっては庭のようなものだ。そう、俺たちは人間と何一つ変わらない姿をしているが、その裡には野生の獣を潜めているのだ。
その野性の恩恵で、真夜中の森だろうと、僅かな星明りさえあれば遠くまで見渡せる目と、かなりの広範囲まで匂いを嗅ぎ分けられる鼻を持っていて、夜でも逸早く危険を察知できる。
だから夜の森でも松明を焚かなくても、集団で纏って行動しなくても心配はされない。
夜の森を五人は駆け抜けた。夜の森は獣の匂いや鳥の声があちこちに感じられ、町から逃げ出した一家のものかどうかの判別は付かない。俺たちは獣がいる場所を順番に回って確認していくしかなかった。
獣には夜行性のものが多い。俺たちを察知すると獣は一目散に逃げていく。その中に集落の人間がいないのを見定めると、また別の獣がいる場所を目指す、それの繰り返しだ。
森は深く、町にまで行くにはかなりの時間がかかるはずだが、家族も同じ一族のものだ。
暢気に休んでいたり、なにか事故や事件などで足を止めなければならない事態にでも陥っていない限り、もう追いつくことはできないだろう。
そんなことはみんな分かっていたが、それでも本気で捕まえようと躍起になっている。
「この辺りから同族の匂いがする。探せ!!」
少し進んだところで、牙将が足を止めると俺と後三人に指示を出す。
三人は声を上げて返答すると、三方に飛び、最後の一方へは俺が向かった。