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学校一の美少女が俺の入っている学校の個室トイレをノックしている件。

作者: 恒河沙

「早く出てよ~。もう限界なんだけど~。」

 トイレをノックする樹里先輩の声は相当追いつめられているようで、トイレを拳で叩いている。


 俺はもうとっくに用を済ませ、ズボンを上げている。しかし、この個室トイレを開けようかどうか迷っている。もちろん、原因は学校一の美少女、樹里先輩が俺のいる個室トイレの前にいるからだ。


 ここで、今すぐ開けてやれと思うかもしれない。だが、よく考えて欲しい。俺は先ほど確認したが、男だ。そして、樹里先輩は女だ。


 ここから推測できることとして、俺が間違って女子トイレに入っている可能性だ。


 俺はトイレまで間に合うかギリギリだったので、女子トイレか、男子トイレかどうかを確認せずに、個室トイレに駆け込んだ。もしかしたら、その時、間違えて女子トイレに入ってしまったのかもしれない。


 そしたらどうだ、私の学校生活は終わるじゃないか。


 もし、このトイレから出てしまったら、俺が樹里先輩に見つかってしまう。そうなれば、次の日には学校中の噂は、女子トイレに忍び込んでいた男として有名になるだろう。なんなら、教師人に呼び出され、保護者面談になる可能性だってある。


 それに、樹里先輩はこの学校のアイドル的存在だ。もし、樹里先輩を狙った犯行なんて噂が出回れば、この学校中の生徒にタコ殴りにされる。そうなれば、詰みだ。まだ高校一年生なのに、プロの変質者として生きていくことになる。


 かと言って、このままだんまりを決め込むのはどうなのだ?


 このままでは、樹里先輩はトイレを我慢できず、最悪の事態になるなんてことが……。


 いや、それはむしろ……。みたいなところがあるが、それは人として終わっていないか?


 ちょっと見てみたいという邪念は今捨てろ! 


 このドアのノックの仕方は、もう本当に限界な人だ。別のトイレに向かう暇のない人の魂のノック、俺がこの扉を開けなければ、樹里先輩は死ぬ。だが、この扉を開ければ、俺が死ぬ。


 なんというジレンマ。俺は樹里先輩のために、死ねるのか?


 いや、死ぬのか?


 もしかしたら、何とかできるんじゃないのか? 樹里先輩は今、絶体絶命の状態だ。なら、俺がこのトイレを開ければ、すぐにトイレの中に入っていくんじゃないか?そうしたら、俺の顔を見る暇もないはず。


 見たとしても一瞬のはずだ。なら、一瞬見られたとしても顔の判別がつかないようにすればいい。


 こっちにはトイレットペーパーがある。トイレットペーパーを顔に巻きつけて、ミイラの様にして、トイレから出れば何とかなるんじゃないか?


 そうだ、ミイラになれば、制服で明らかに男子だと分かるが、誰かまでは分からないはずだ。そうすれば、後は、隣の男子トイレに全力疾走して、個室トイレで顔のトイレットペーパーを捨てる。そして、何事もなくトイレを出て、教室に戻る。これでいい。


 後は、変質ミイラ男の噂は広まるだろうが、そのミイラ男の正体が俺であるという証拠は無くなる。もし、樹里先輩がミイラ男の噂を広めたとしても、あまりに突拍子のない話だと、皆は信じず、捜査は始まらないはずだ。


 そもそも、樹里先輩は天然な所があるから、きっと発言に説得力はないはずだ。


 ……いや、待てよ。


 ……もしかして、樹里先輩が男子トイレに入ってきている可能性はないか?


 そうだ。そもそも、俺は急いでいたからと言って、女子トイレに入るほど、間抜けではないと自分を信じたい。それに、トイレに駆け込んだ時、おぼろげながら、小便器を見た記憶がある。


 女子トイレに小便器はないはずだ。それに、ここが男子トイレかどうかはこの個室トイレの中からでも確かめることができる。トイレの下の隙間から小便器が見えれば、俺は男子トイレにいる。そうなれば、俺は死なない。それに、樹里先輩も天然エピソードが一つ増えるだけだ。


 よし、そう心の中で呟くと、トイレの床に手をついて、個室トイレの下の隙間から周りを見渡した。


 すると、目に見えたのは、樹里先輩のローファーと男性用の小便器だった。


 俺は胸を撫で下ろし、息を一つ吐いた。俺は今男子トイレにいる。そして、男子トイレに樹里先輩が入ってきている。これが正解だ。


 俺は立ち上がると、個室トイレの開けるために、鍵のロックに手を伸ばした。


「早く~、卓志~。入っているんでしょ~。開けてよ~。」


 俺は鍵を開けようとする手を即座に止めた。


 今、卓志って言った? 卓志は俺の名前だよな?


 どういうことだ? つまり、樹里先輩は俺がこの個室トイレに入っているということを知っているのか? じゃあ、ここが男子トイレだということを知っているのか?


 樹里先輩はトランスジェンダーだったのか?


 いや、違う。この状況の一番合理的な解釈は、女子トイレが混んでいて、男子トイレにしょうがなく駆け込んだ可能性だ。


 樹里先輩が大坂のおばちゃんのような恥も外聞もない人間だとは信じたくはないが、人間は追い詰められれば、そうなるものなのかもしれない。


 いや、でもそうすると、なぜ、俺がこの個室トイレに入っていることを知っている?


 だって、俺は樹里先輩がノックし始めた頃には、用を澄ましていた。俺は結構長いことこのトイレに籠っていた。それに、俺と樹里先輩は学年が違うから、俺がこのトイレに入っているなんてことは推測できないだろう。


 それに、この男子トイレには個室トイレは三つある。その中で俺が入っているトイレがここであると分からないはずだ。それに俺が樹里先輩のことを一方的に知っているだけなのに、樹里先輩はなぜ俺のことを知っているんだ?


 そして、なぜ、俺だけを狙い撃ちしてくるんだ? 


 やばい、早く結論を出さないと、樹里先輩が決壊する。それに、俺も急いで学校に行かなければいけない。


 ……学校にいかなければならない? 授業に行かなければならないじゃなくて?


 あれ、今、何時間目だ?


 何時間目の休憩時間だ?




 俺はこの有り得ない状況の真相に気が付いた。


 俺はトイレの鍵を開けた。すると、そこには鬼気迫る樹里先輩が立っていた。そして、樹里先輩は安心した顔で、俺を見つめた。そして、樹里先輩は俺の体を抱きしめた。


「卓志~、ありがとう。数学の宿題、机の上に置きっぱなしだから、忘れないでね。」

 そう言って、樹里先輩は俺の頬にキスをした後、個室トイレに入っていった。


 そして、男子トイレの出入り口からは、俺のクラスメートと担任の先生がインド映画の様に踊りながら入って来る。そして、皆は口をそろえてこう言うのだった。


「ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ」


 俺は気が付くと、白い天井を見上げていた。体を起こして、目覚まし時計を止め、しばらく、ぼーっとしていた。


「夢かよっ(ꐦ°᷄д°᷅)」

 俺は目覚まし時計を壁に投げつけた。投げた目覚まし時計は、机に置いた数学の宿題ノートの上に、ポロリと落ちた。

 テーマ先行で考えた結果、結末が出来上がらなかったことをお許しください。


 夢オチなんてサイテーヽ(`Д´#)ノ。

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