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木蓮屋敷 8
昼に言われた通り、いつもは掃除するだけの北側の座敷で待っていたら、先生が現れた。
「いつもは綾さまのお部屋でお勉強するのだけど試しに今日はここを使ってみましょう。誰にも立ち入らないように言いつけてあるから気兼ねはいらないわ」
その時、奥側のふすまが開き、少女が入ってきた。綾さまだ。
最初に目に飛び込んできたのはその髪型だった。おかっぱに切りそろえてある。
わたしと同じくらいの年齢なのに日本髪に結わずにおろしている子は見かけないけれどお金持ちの家のお嬢様にはよくある髪型なのかもしれない。
きれいな着物、白い肌、折れそうなくらい細い指先…。
じろじろ見るのは失礼なのだけど目が離せない。
そんなわたしを見とがめるように先生が言った。
「さ、ふたりとも座りなさい。今日はなにから始めましょうか」
「先生、この子がいと?」
「そうですよ。ちゃんとお話したでしょう。綾さまが怠けるからわたしが呼んだのですよ」
綾さまはわたしのほうに向き直ってにこりと笑った。
人にこんな風に微笑まれたことは初めてだった。
「いと、一緒にお勉強しようね」